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「バイバイ、朱翔」
ドレッサーに置いてある香水を手に取り、彼女は別れを告げた。
見慣れない、黒色のリボンが香水瓶に巻かれている瓶を愛おしそうに彼女は撫でながらふたを開ける。
俺があげたものじゃなかった、その上彼女が好むブランドの香水でないことにすぐに気が付いた。
「……それ、買ったの?か」
「え? ああ、この香水? 貰ったんだよ大切なひとに」
そう答える表情は昔、俺に向かって微笑む彼女の表情だった。
だけど、今、その表情は俺に向けられているものではない。そうと分かると何故か胸が締め付けられた。
もう、愛してるわけではないはずなのに―――――。
「そのひとはね、大人っぽくて聡明で小さな変化にも気づいてくれるようなひとなの。意地悪もするんだけどね」
大切なひとの話をする彼女は嬉しそうで、声も弾んでいた。
俺が愛してるのは茉央だ。なのにずきん、ずきんと痛みが引かない。
その声色が、香りが、笑みが現実を痛いほど突き付けてくる。
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