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次の日は青空が綺麗で絵に描いたような晴天だった。昨日洗い終わった洗濯物を籠にいれてベランダで干していると眠い目を擦りながら私を見た。
「おはよう。起きるの早かったね」
ん、と短く返事をし見慣れないネクタイを片手に、いつもの定位置のソファに腰を下ろした。はっきりは確認出来ないが昨日のネクタイと色違いだろうか、薄紅色に桃の花が刺繍されたネクタイが朝の光を受けて輝いていた。
もうわかってることなら、本人の口から答えを聞いても怖くない。ならいっそのこと聞いてしまおうか。
「そのネクタイ、お洒落だね。新しいの買ったの?」
「これ、地元で会った時に貰ったんだよ。出世祝いとかそんなことで」
「へえ、誰から?」自然と私はそう尋ねていた。この質問に深い意味なんてない。
「小瀬野だよ」
「小瀬野さん…って中学が同じだった人、だよね? 会ったんだ」
「まあ。相変わらずだったよ、小瀬野。あの頃のままだった」
懐かしの同級生を話す彼の表情と声色は明るい。
目を細めて笑うその姿も髪を撫でながら照れる姿も、自然に私の右隣に居てくれるのも全部好き。そしてあなたの癖はいつの間にか私の癖にもなっていた。
「そうだったんだ。あ、もうそろそろ家出る?」
「うん」
壁にかかっていたスーツを羽織りバックを持って彼は革靴を履く。
小瀬野さんの話をしたからなのか、それとも天気が良いからなのか今日の彼は上機嫌だった。できれば後者であってほしい、そんな願望が脳裏の片隅に浮かぶ。
「いってらっしゃい」
仰ぐかのように手を振るこの仕草ももとは彼の癖だった。昨日と同じ、変わらない朝日が目に差し込む。それと同時に本当にあなた色に染まったんだな、って心の底から感じた。
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