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「お前、今、なんて言ったんだよ…」
戸惑いを隠しきれず、俺は唖然とした。それでもなお、彼女は恋に焦がれた瞳で俺を見つめていた。俺以外が視界に入っていない、甘く溶けた瞳に冷や汗が出る。
「だから好きだったんだよ、朱翔」
「好きだった? 何言ってんだよ急に」
「朱翔が雅楽さんを好きなのは知ってた。でもね、私は諦めきれなかったの。ねえ朱翔…?」
「んだよ」
「同窓会で再会してから半年、私と会ってた理由がこれで分かるでしょ…?」
その問いに俺は何も答えられなかった。
「まだ、好きなの? 雅楽さんのこと」
その名前にドクン、と脈が打つ音が全身に響いた。
俺の彼女―――優しくてしっかりしている、初めて俺から交際を頼み込んだ女性。彼女と付き合い始めてから早3年が経とうとしている、最近ふと脳裏によぎるこの疑問にも俺は、はっきり答えられない。
――――俺は、彼女を好きなのか?
「……答えられないってことは、悩むんだね。好きかどうかを」
すると、返事を返さない俺にしびれをきらしたのは小瀬野は苦笑混じりにそう言った。
「もう愛情が冷めきってるなら、すぐに返事は出来るでしょ? でもそれが出来ないってことはまだ愛はあるんだね。―――染まったね、朱翔」
「染まった?」
「彼女さん色に。あの人と付き合い始めてから自分では気づいてないのかもしれないけど、ずいぶん変わったよ。どことなく笑顔も増えたし性格も柔らかくなってる」
そう告げる小瀬野はどことなく寂しげで、目を伏せていた。でも全て心の内を語ったわけではなく、まだ何か言いたげだった。
さっきまでかき混ぜていたオレンジジュースを飲み終えると、俺を真っ直ぐ見つめ口を開いた。
「もう、会うのやめるね」
今まで我儘言ってごめんなさい、と潤んだ目で謝罪をしてきた。
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