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①出会ってから数分後、君に告白された
桜が咲いて散るのはいつだったっけ。
卒業式に咲くのか、入学式に咲くのか。地球温暖化が進んだいま、どちらだったのか思い出せない。
通学路に桜はあっただろうか。濃いピンク色は梅だったような気がする。
ついこの間やっと春になったと思っていたのに、肌寒さはもうなく、輝く太陽が空気とコンクリートを温めている。
新たな教室の窓は全開で、柔らかい風が中に吹き込んでいた。
「わー! おはようおはよう!」
その中で悲鳴のように響く女子の声。廊下からは男子の騒ぐ声が聞こえる。
「同じクラスー!」
「うわあ! どうして俺だけ三組なんだよー!」
「あれ、こっち勝ち組じゃね?」
「私もここのクラスが良かったぁ…………」
高校二年生でのクラス替えは、修学旅行くらい大きなイベントだ。
吉と出るか凶と出るか。
最終的にはクラスのメンツに慣れるのだろうけれど、それでも一年生の頃に仲良くしていた友達と離れるのは寂しいもの。
実際先ほど私も「寂しいね」とか「またよろしくねー」とか、周りと同じような言葉を交わした。そこまで騒がしくはしなかったけれど、この儀式のようなものは一通り終えてある。
浅野涙花(あさの るいか)は席についたままその儀式を現在進行形中の彼、彼女らの様子を横目で見て、手の中にあるスマートフォンに視線を戻した。
SNSで流れてくる一言占いを見るのが最近のマイブームだ。
星座、血液型、男心とか、女心まで、幅広く占いの内容が流れてくる。占っている人も沢山いて、その数だけ異なった結果がある。でもどれを見ても自分に当てはまっていると思ってしまうのはどうしてだろう。不思議なものだ。
ちなみに今日のよく見る一言占いは、『広い心で』と書かれている。
(教室が騒がしくても怒るなってところかな)
別にこんなことで腹を立てることもないのだけれど。
「涙花ー!」
「わっ」
ドンと後ろから抱きしめられ、前のめりになる。
こんなことをしてくるのは彼女しかおらず、慌てることなく机にスマホを置いて振り返った。
「おはよう、澪(みお)ちゃん」
「はよー! じゃなくて! 同じクラスー!」
ぴょんぴょん跳ぶ波木澪(なみき みお)。
耳の後ろで左右に結んでいる髪の毛がそれと合わせるようにピョコピョコ揺れる。少し幼い顔に似合っていて可愛い。
「やったー! 嬉しい嬉しいー!」
大きな声で喜びを露わにする澪だが、周りと同じそれに注目されることはない。
涙花は「うん」と頷いて笑った。一年生の頃、一番仲が良かった友達だ。私も素直に嬉しい。
「私も澪ちゃんと一緒のクラスなの嬉しいよ」
「ほんと⁉ そう言ってもらえて、もっと嬉しいー!」
今度は左右に揺れる。リアクションがオーバーなのもいつものこと。そのリアクションにどこかキレがあるのは彼女が運動部、テニス部だからだろうか。
だが突然、澪の動きが止まり、両手のひらで自身の顔を覆った。一気に温度が下がったようなそれに「ん?」と涙花は首を傾げた。
「澪ちゃん?」
「ごめん涙花。また同じクラスなのは嬉しい、すんごく嬉しいんだけど、ちょっと厄介なことがあってね」
「え、なに? どうしたの?」
「本当に申し訳ない……まさかアイツも同じクラスになるとは思わなくて」
「あいつ?」
「紹介しなくちゃいけないバカがいるんだよ」
気が重いというのが声音から分かる。
紹介しなければいけないバカとは?
騒がしい教室。その中で涙花と澪の横に影が止まる。席に座ったままの涙花は必然とその影を見上げることになった。
「誰がバカだって?」
突然の登場なのに、彼はまるで先ほどからずっといたかのように会話に入ってきた。
(え、誰)
「いやバカでしょ。バカだから。何度も言うけど、バカだよ」
「あ? バカバカ言ってる方がバカなんだよ、バカ」
「うっさい。あー神様、どうしてコイツが同じクラスなんですか」
「はは、神は俺の味方だったっつーことだろ」
「俺の勝ち」と笑う彼に、澪は「さいっあく」と溜息をつき、また涙花に抱きつく。
「ごめんね涙花ぁ。こんなんなら最初から諦めろって言えば良かったぁ…………」
「いや、えっと、ごめん、全然話について行けないんだけど」
よく分からないが彼女が落ち込んでいるのは分かる。
優しく頭をポンポンと叩くと、「おらニャン子、ちゃんと俺を紹介しろよ」と彼は澪を急かした――――ん? ニャン子? 澪のことだよね?
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