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鳴り響く即位を告げる鐘の音を聞きながら、私は思っていた。
あ、これヤバいわ。逃げなきゃ、と。
私の名前はリーズシェラン。今はこの国の王女だけど、前世は違った。そう、前世。
何故か前世の記憶を持ったまま転生してしまった私は、とにかく目立たないように、大人しく過ごした。
だってこの世界、まだ男性優位の社会だし、仮にも一国の王女が変だとわかったら、確実に軟禁か病死に見せ掛けた暗殺フラグが立つ気がして。
なにしろ私の父である国王は子沢山。四人の兄と三人の姉、そして下にも二人の弟がいる。私一人いなくったって、どうとでもなるのだから。
そうしてひっそり大人しく暮らしていた私だけど、一つだけ、どうしても我慢出来なかったことがある。すぐ下の弟に対する酷い虐めだ。
弟の母は侍女だった。側妃ですらない。私からすると、手を出した父が悪いのだけど、他の兄弟やその母達はそれはもう弟と彼の母を貶した。虐めに虐めて、彼の母を殺した。
正直、この時ばかりはやってらんないと思ったね。
王族なんてやってらんない。監禁? 暗殺? 好きにしたらいいさ!
――と、やけくそになった私は、一つ年下の弟、アランを庇った。幸い、私は正妃の娘ではあるし、まあ、色々あったけどなんとかなった。
「ねえ様、ありがとう。ねえ様、大好き」
そう言って、本当に嬉しそうに私にまとわりついてくるアランにほだされたしね。ただ……
「さあ姉様、こちらへ」
今や見目麗しい美青年に成長したアランは、輝かんばかりの笑顔で私に自分の隣を勧める。
王座についた自分の隣を、だ。
「い、いいえ。陛下……」
「姉様、アランと」
「……陛下」
「姉様」
「……アラン」
「はい、姉様」
にっこり、と満足気に笑うアランとは真逆に、この時点で私の心は折れかけていたけど、ここは踏ん張らなきゃ。
「その席は正妃が着く場所よ、アラン」
だから無ー理ー。と、告げてもアランの笑顔は曇らない。
「僕は正妃なんて持ちませんよ。子を産む相手なんて側妃で構いませんし」
私が構うわ!!
もう嫌だこいつ、と遠い目になる私を、アランの側近達が促して正妃用の椅子に座らせる。そんな私を眺め、アランは本当に嬉しそうに笑った。
「これで姉様は他国に嫁がなくて済む。ずっと一緒にいられますね、姉様」
……そう。この、血塗られた王位纂奪劇の発端は、こともあろうにこの私が原因なのだ。私に持ち上がった隣国との政治的な結婚話。
いわゆる政略結婚を、この弟は嫌がった。嫌がったあげく、兄弟や父を手にかけて一国を掌握したのだ。
……私の未来と共に。
「大好きですよ、姉様」
子供の頃と同じ笑顔を浮かべるアランに優しく微笑み返しながら、私は思った。
早いとこ、この国から脱出しよう、と――。
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