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冬と春の間に挟まれた三月下旬。
春休みの最中。
実緒は所属している吹奏楽部の練習のため、学校に来ていた。
お昼になり、校舎の東側、三階の外階段へ向かう。
誰もいないことを確認して、廊下からドアを開け、外階段の踊り場へ出る。外は強い風が吹いていた。
天気はよく、日差しがあるから寒くはない。でも、風には冷たさが残っていて、頬を掠めるたびにぴりぴりする。
実緒はため息をつく。疲れた。また午後からも練習かと思うと、ちょっと気が滅入ってくる。
だらーっと踊り場の柵にもたれる。
「あのー」
急に声をかけられ、実緒は飛び上がりそうになった。
振り返った先。
二階の方から、誰かが階段を上がってきた。見るからに爽やかな風貌の背が高い男子。実緒と同じ一年の園田遥斗だった。ジャージ姿だから、向こうも部活中なのだろう。
彼とはついこの前まで同じクラスだった。
話したことはほぼない。
遥斗はそこにいるだけで周りを明るくするような元気な人。
バレー部に入部してすぐレギュラーになり、同じ部に彼女がいるという噂だった。
一方、実緒は教室の片隅でひっそり生息する地味で大人しい女子。話す機会など、訪れるわけがないと思っていた。
それなのに、彼と間近で話すことになり、実緒は動揺した。
遥斗がにっと笑う。
「ここで弁当食ってもいい?」
「えっ、あ、どうぞ」
断る権利もないので言うと、遥斗はそのまま階段に座った。実緒に背を向け、弁当を食べ始める。
「堀江さんは食べないの?」
「私は……」
実緒は心の中で「沙紀ちゃん早く来て!」と、友達に助けを求めた。
沙紀とは同じ吹奏楽部で、今日ここで一緒に食べる約束をしていたのだ。もう来てもいい時間のはずなのに、なかなかやってこない。
遥斗が口をもぐもぐさせながらじっと見てくる。実緒はその視線の圧に負けて、踊り場にタオルを敷いて座った。
終始無言の昼食タイム。気まずくてご飯が喉を通らない。
遥斗はそんな実緒には構わず、先に弁当を食べ終えたようだった。
「ちょっと昼寝するから、俺のことは気にせず食べて。ちょっと疲れちゃって」
遥斗はあくびをして、こてんと階段の壁に身体を預けた。しばらくすると、穏やかな寝息が聞こえてくる。
(本当に寝ちゃった……)
実緒が戸惑っていると、側のドアが開いた。
「ごめん実緒。先輩と話してて……」
ようやく来た沙紀に「しー」と実緒は人差し指を立てて言った。
「え、なに?」
小声になった沙紀は遥斗の姿を見つけると「ええ?」と首を傾げたあと「おお」と感心したように頷く。
「実緒、男子なんか興味ないみたいな顔して、実は園田くんとこっそり知り合いだったんだ」
「何言ってるの沙紀ちゃん」
「私、今日別のとこで食べるから。どうぞごゆっくり」
勘違いしたまま沙紀はどこかへ行く。
美緒は途方に暮れた。さっさと弁当を食べて、ここから去るべきか。でも、もしこのまま寝ていたら、休憩時間が過ぎたことに遥斗は気付けないかもしれない。
結局、実緒はその場にとどまることにした。
相変わらず風は強く、遥斗の背中と実緒の間を隔てるように吹き抜けていく。
(なんでこんなことに……)
実緒はなるべく遥斗の方を見ないようにして、弁当を食べた。
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