虚実八百

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 それらの嘘は、すぐにタルマの生産会社の耳に入った。会社名はずばり日本タルマ株式会社。国内でのタルマの生産と販売を一手に担い、国内にタルマブームを起こした火付け役である。  最初に嘘を聞いたタルマ株式会社の社長、多留間好造(たるますきぞう)は心臓が飛び出るほど驚いた。ほとんどの情報は事実無根のデマだったが、その中の一つ、「タルマが伝染病にかかっている」というのは本当だったからだ。正確には伝染病かどうかすらも分からないのだが、国内で生産しているタルマの皮が白く変色するという謎の現象が起こっていた。  実はこれ、シロシロムシという蚊のような羽虫が引き起こしている病気である。この虫がタルマの果汁を吸うと、マッシロ菌という細菌が侵入し、本来なら赤くなる皮が白く変色するのだ。しかし、この事実が判明し、ミルク病という病名がつけられるのは三十年後の未来であり、現在は分かっていない。  原因が分からないので、タルマ社は白く変色したタルマは秘密裏に捨て、変色していない赤いタルマだけを販売していた。病気に感染しているかもしれない苗から収穫したタルマの実は、たとえ白く変色していない実だったとしても、食べれば健康被害が発生する可能性がある。だが、変色の原因を解明するまで生産と販売をストップさせれば、会社は倒産してしまう。  いったい誰がこの情報をリークしたのだろうか。社内に裏切り者がいるのか。それともライバル会社のスパイが忍び込んでいるのか……。  社長は頭の中で犯人を捜したが、見つかるわけがなかった。なぜなら「タルマが伝染病にかかっている」と最初にネットに書き込んだのは、社内の人間でもライバル会社のスパイでもなく、イタズラ好きな中学生だったのだから。  そんなことを知るよしも無い社長は、ある報道番組からインタビューの依頼を受けていたので、そこで一芝居打つことにした。
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