虚実八百

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 映像がVTRに切り替わる。出演者もスタジオのテレビでVTRを見た。  多留間社長が半分報道のスタッフを本社内に招き、インタビュアーを応接室のソファに座らせる。インタビュアーが社長に質問した。 「現在、ネットにはタルマに関する様々な情報が飛び交っています。ご存じですか?」 「ええ、それはもう。最初に知ったときはびっくりしましたよ」 「単刀直入に聞きますが、ネットで言われていることは本当なのでしょうか?」 「まさか、そんなわけがありません。例えば地球温暖化の影響でタルマが穫れなくなるといった情報がありますが、これは嘘です。ちゃんと品種改良をして日本の温暖な気候にも耐えられるようにできています。温暖化で多少温度が変動してもへっちゃらです。それからタルマーダ国で伝染病が蔓延(まんえん)して、タルマ農家が人手不足になっているとも言われてますが、これも嘘です。現地に私の知り合いがいるんですが、そんな話は聞いたことがない。まったく、なんでこんな悪質な嘘が広がったんだか分かりません。迷惑ですよ」 「タルマが伝染病にかかっているという話もありますが」  社長は一瞬顔を(こわ)ばらせたが、すぐに平静を装ってこう答えた。 「ああ、そんな話もありましたね。それも当然、嘘ですよ。私はね、なんでこんな嘘が広まっているのか考えたんですが、おそらくライバル企業のせいだと思うんですよ。我が社がタルマ市場を独占しているんで妬んでるんですよ」 「ライバル企業が嘘を流しているという証拠はあるんですか?」 「いや、それはまだ掴めていませんが、そうとしか考えられません」 「分かりました。まとめると、ネットでささやかれている噂はすべて嘘ということでよろしいですか?」 「はい、そうです」 「分かりました。本日はわざわざ取材に応じていただきありがとうございました」 「いえいえ」
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