虚実八百

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 小学四年生のトモヤは、朝食をとるためキッチンのテーブル席に座った。  今日の朝食はハムエッグにトースト一枚。そしてデザートはタルマだった。  タルマとは、果物(正確には木ではなく苗からできるので、イチゴと同じ果実的野菜)の名前である。数年前にタルマーダ国から伝わり、日本で大ブームを巻き起こした。当初は輸入品しか出回っていなかったが、現在では国産品のみが販売されている。国産品は輸入品よりも風味が日本人好みで、甘みが強くなるよう品種改良されていた。値段もあまり変わらないので、今ではタルマと言えば国産品で、輸入品は国内市場から姿を消している。  皿に乗ったタルマを見て、トモヤはテーブルの向側(むかいがわ)で食事をとっている母親に言った。 「お母さん知ってる? タルマが買えなくなっちゃうって」  嘘だった。今日は4月1日でエイプリルフール。だからタルマを見てテキトーに考えた嘘を言った。  母親は興味なさげに尋ねた。 「ふーん、どうして?」  理由までは考えていなかったが、トモヤはまたテキトーに考えてこう言った。 「地球温暖化のせい」 「あーそっか、タルマは元々寒い国で作ってたからね」  そんなことはトモヤも知らなかったが、母親が勝手に理由を取り(つくろ)ってくれたおかげで、上手く騙すことができた。  トモヤはそれに満足し、朝食を食べ終わると家を出て学校に向かった。  母親は食べ終わった食器を片付けると、買い物をするためにスーパーマーケットに向かった。その道中で近所に住む奥さんと会い、いつもの井戸端会議が始まる。  母親はふと、今朝方トモヤに言われていたことを思い出して言った。 「あ、そういえば、タルマがもうじき買えなくなるらしいわよ」 「え、そうなの?」 「なんでも地球温暖化の影響で」 「あらやだ怖いわね。ゲリラ豪雨なんかも温暖化が原因なんでしょ?」 「怖いわよね。他の作物にも影響が出ないかしら」 「あ、そういえば最近キャベツが高くなったわよね」 「それも温暖化のせいかしら。怖いわね」  奥さんはトモヤの母親が言ったことをすっかり信じこんでしまった。
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