派手派手お母さんの勝利

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身体に特に異常の無かったあたしは、父の持ってきてくれた服に 着替えて、その日のうちに退院することができた。 そして父は、あたしが学校に置いてあるモノも持って帰るからと 言ってくれた。 「ゆっくり歩けるかい?それなら、お母さんと、 ちゃんと話しなさい」 とも、父に言われた。 そうしてあたしは、母と手をつないで家へと向かってる。 「美波、お母さんね、生まれた家が貧しかったのよ。 それでね、着るのは、お兄ちゃんのお下がりでね、 男の子の服だったの。すごくイヤだけど我慢した。 そして思ったの。大人になって自分でお金を稼いだら、 自分が着たい服を着まくるんだって」 「それで、色が派手なものばかり......」 「そうよ。もちろん着こなしてないって、わかってた。 でも、自分のしたいようにしたかった。 だって、自分の人生だもん、自分の好きにしていいでしょ」 「そうだ、そうだよね」 あたしは、お母さんを、あたしの思い通りにしようとしてた。 そんなの間違ってたんだ。 「でも美波がイヤなら着ない。 美波が命がけでやめさせようとするなら、美波の命のほうが大事」 「いいよ、お母さんは、お母さんの人生だもん」 「美波......」 「お母さんを派手だって笑う人のほうが、おかしいんだよ。 お母さん、ごめんなさい。好きな服を着るのを止めようとして、 本当に、ごめんなさい」 「美波、みっともない母親でゴメンね」 「みっともなくないよ」 やっと、そう思えた。 夕暮れに染まる母の黑い服は、いつもと違いすぎると。 あたしは変だと思うことができた。
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