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そんなこんなで、三月。引越し当日。マンションのご近所さんに、私は挨拶を済ませた。美香さんにも挨拶するように勧めたが、「そんなに仲良しでもなかったし」とか「今時、かえって迷惑かも」と言い、断られた。これだから最近の若いもんは。
「あ、お母さん。おばあちゃん帰ってきた」
「遅くなって、すまないねえ」
と、私は誠二、美香さん、凜にぺこぺこ謝る。私の世話をしてもらっている以上、強く言えない立場だ。仕方がない。
「じゃあ、行くか」
誠二は部屋の鍵を閉める。それからマンションの一階に下りた。一階の端には【テレポート装置】が床に設置されている。
「それじゃあ、お父さん、鍵を返すから。先に行ってて」
「あー。お父さん、逃げたー」
「逃げてませんー、ちょっと怖いだけですー」
まったく。頼りにならない息子だ。
「凜、美香さん、行かないのかい?」
「ええ、と」
「だって、何かあったら危ないし」
これだから最近の若いもんは。ビビりめ。今の時代、テレポート移動は主流になりつつある。テレポート装置で、直に会い、友人たちと出かけている私にとっては慣れたものだ。しっかりしてほしいものだ。テクノロジーについてこれない人間から淘汰される時代だというのに。
「なら、私から行こうかね」
なんだか鉄砲玉のようで少々、不服だ。しかし、荷物は転送済みだ。さっさと美香さんや誠二には荷ほどきをしてもらわないと困る。それに少し眠い。早く新しい部屋で寝たい。
「お母さん。おばあちゃん、すごいね。使いこなしてて」
「そうね」
と、後ろで話し声が聞こえた。先が思いやられる。やれやれ、これだから最近の若いもんは。
完
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