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《プロローグ》
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
シャッ。
シャッ、シャッ。
シャッ・・、シャッ・・。
何かを何枚も、捲《めく》る音。
カサッ。
シャッ・・、シャッ・・・。
それは、何十枚ものカードのような物が、捲られていく音だった。
トランプカード?
カードゲーム?
シャッ・・、シャッ・・・。
この捲られていく何枚ものカードには、様々なイラスト(デザイン)が描かれていた。
ここは6畳程の、とある部屋。
ベッドには、子猫らしきぬいぐるみ。
床に転がっているマカロン型のクッション。
本棚には、教材となる参考書が並べられてあった。
その部屋の真ん中で、薄水色の縞《しま》柄タオル生地の半袖と短パンのルームウェア姿の女の子が一人いる。
濃いめのブラウンのショートカットの髪型で、透き通るような白い肌に、あどけなさと可愛さを合わせたパッチリの瞳。
先程から真剣な眼差しで、たくさんのカードの束をシャッフルしては一枚ずつ並べていた。
そんな時、部屋の階下から母親らしき人物の呼び声が聞こえてくる。
「悟美〜。悟美〜。」
「ん〜? 何〜?」
カードを扱いながら、返答する悟美。
藤ケ崎 悟美。18歳。
高校3年生である。
「今日の夕食は、ハンバーグにするから〜。」
再び、下から投げかけるように聞こえてきた。
「うん。分かった〜。」
悟美が返答し、持っているカードをまた一枚、表を返して床に置く。
カードのイラストには、『運命の輪』と書かれていた。
彼女は、タロットカードをやっているようだ。
開いている窓越しから、優しい風が吹き込んできて、レースのカーテンを揺らす。
その時、外の方で僅かに、低排気量のバイクのエンジン音が悟美の耳に聞こえた。
「あっ! ヤバイ! 来た!」
悟美はそう叫ぶと、持っていたタロットカードをその場に置き去りにして、慌てた様子で部屋を出て階段を降りていく。
「やっと来た! やっと来た!」
喜び溢れる声で、階段を駆け降り、玄関を目指していた。
その賑やかさに、何事かとリビングのドアを開けて、母親の純が声をかける。
藤ケ崎 純。38歳。
「何? どうしたの、悟美?」
母親の問い掛けに、悟美はとりあえず振り返ったが、体と思いはもう玄関ドアへと伸びていった。
「あ、多分、ゆうパックが来たんだよ。ネットで頼んでいたアクセとネイルが、やっと届いたの。」
クロックスを履いて、玄関ドアを開け、外へと飛び出していく悟美。
日が暮れるにはまだ早く、太陽は西空の方から町並みを照らしていた。
玄関を出ると、コンクリートの中に川石が散りばめられたエントランスが、3メートル四方程の敷地になっていて、その先に少し錆びかけた門扉と赤い郵便受けが目に付く。
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