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雑貨屋での村上の姿が浮かんでくる。
————
「藤ケ崎、お前は何してるんだ?」
村上が、スッとした切れ長の細目をチラリと悟美の方へ向けて尋ねた。
悟美は村上の方を見なくても、その視線を感じ、わざと目を合わせられなくて、体が硬直する。
「・・あ、あの。私は・・・・ペンシルをね、買いに来たんだよ。」
緊張した声で答える悟美に、村上が返答した。
「そうなのか。」
————
そんな事を思い出しながら、悟美が激しく左右に首を振りながら独り言を言う。
「やっぱり、あの状況で、村上くんに手紙を渡すなんて無理だよねぇ。」
悟美が、そんな事を色々と考えているうちに、時間は経過していった。
そうして、下の玄関から、
「ただいま〜。」
という声がする。
母・純が帰ってきたようだ。
時計は、22時になろうとしている。
悟美はその途端、いつもと違って何故か急いで部屋から出て階段を降りていった。
そして、リビングにいる帰ってきたばかりの純に声をかける。
「遅かったね。」
リビングで荷物をおろし、純は行き来しながら悟美に返答した。
「あ〜。本当、遅くなって。疲れた〜。」
テーブル横にじっと立ったまま、悟美が見ている。
純は慌ただしく動いて、浴槽の再沸騰ボタンを押したり、冷蔵庫から何やら出して明日の準備らしき事をし始めていた。
「職場の行事ごととはいえ、ここまで遅くなるなんてね〜。明日も仕事だから、早く休まないと。」
「うん。そうだね。」
「LINEしてたけど。肉じゃが食べた?」
「あ、うん。美味しかったよ。」
そんなやり取りをしながら、じっと立っている悟美の様子が気になって、純が改めて振り返り問いかける。
「ん? どうしたの? 何かあった?」
そう言われて、ハッとする悟美であったが、やや戸惑う仕草だけして言葉を返した。
「あ、いや、別に・・。何でもないよ。」
「あ、そう。」
「あ、私。もう寝るね。」
悟美は、ぎこちない様子で、そのまま2階へと上がっていく。
「変な子。」
純は首を傾げて、再び明日の準備をしはじめた。
次の日。
学校の昼休み。
悟美は茜に捕まり、校舎と体育館を繋ぐ渡り廊下にいた。
「はい。コレだよ。」
そう言って、半ば強引に茜が、花柄のついたピンクの手紙を悟美に差し出す。
「えっ⁈」
悟美はまるで、およそ月に一回程度、順番に回ってくる日直の係の日誌を手渡された時と同じ気持ちになった。
「いや・・・コレは、ちょっと。」
それでも茜は、強気な姿勢で詰め寄ってきて、話を続ける。
「手紙を書いてきたのよ。私が、こんなにお願いしてるんだから、頼みを聞いてよ。」
悟美は両手を広げて、その手紙を受け取らないという態度を見せて、言葉を返した。
「いや、だから言ったでしょ。茜の頼みでも、私には出来ないよ。」
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