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そのうち階下から、純の呼び声がする。
「もうすぐ、晩御飯できるから〜。」
悟美の頭の中では、その声もどこか遠く、かすれるように聞こえていた。
今は、夕食なんて、どうでも良い。
食べたくない・・。
茜と全く会話しなくなって、日は過ぎていき、あっという間に日曜日がくる。
今日学校がない事を良い事に、悟美は布団から出てこなかった。
階下から、純の慌ただしい呼び声がする。
「悟美〜。母さん、もう仕事に行くから〜。朝食、テーブルの上に置いてるから、ちゃんと起きて食べるのよ〜。」
バタン。
眠いわけではないが、起きる気力もなく、悟美はベッドの中で、何度も寝返りをうっていた。
しばらくして、枕元にあった携帯電話へと手を伸ばし、画面を見てみると、11時15分になっている。
結局、朝食を摂らないまま、昼になろうとしていた。
短パンのルームウェアのまま、階下のリビングに降りて、キッチンで水を飲む。
ボサボサの髪を、無駄と分かっていても、かき上げてみた。
洗面所の鏡で、自分とは思えない顔を見て、また落ち込んでしまう。
とりあえず、髪を一つに結んだ悟美は、リビングへと戻ってきた。
今から、朝食兼昼食の始まりである。
テーブルの上に準備されていた、くるみパンを食べはじめた時、ピンポーンと玄関の呼び鈴が鳴った。
「えっ? こんな日曜日に、誰?」
出るのも億劫だし、こんな整えていない身なりという事もあり、悟美は居留守を使って出ない事にする。
しかし、またピンポーンと呼び鈴が鳴った。
「えっ〜。パン、食べてるのに〜。」
どうにか自分を正当化し、玄関に出なくて良い理由を考えている。
だが無情にも、それを見透かしているかのように、再び呼び鈴が鳴った。
「もう!」
悟美は、強目に唸り声を上げると、リビングの壁に設置しているインターホンの画面を見る為、立ち上がる。
その画面に映っていた人物は、20歳代後半ぐらいに見える若い男性で、片手には薔薇の花束を抱えていた。
男性は、応答を待っているようで、画面モニターに映ったまま、じっと立っている。
「えっ? 何? 誰? どういう事?」
知らない人物が訪ねてきている事に、悟美は不安と戸惑いを隠せないでいた。
そのうちに、また呼び鈴が鳴らされる。
居留守を使おうと思っていた悟美は、しつこい来客に焦りを感じていた。
僅かな時間の中で、あれこれと試行錯誤して考えた末、とりあえず応答し、用件などを聞いて玄関を開けなければ良い、との結論に行きつく。
新手のセールスなら、体良《ていよ》く断れば良いだけなのだ。
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