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この状況で、そんな手段を思いついた悟美は、なんでもないかのように、インターホンの通話ボタンで返答する。
「は〜い。どなたですか?」
すると、画面モニターに映った玄関にいる人物が、言葉を返した。
「あ、こんにちは。蜂屋といいます。純さんは、おられますか?」
そう聞いた悟美は、思わず口を片手で抑えて考え込み、頭の中で思考を巡らせる。
「えっ⁈ 蜂屋⁈ ・・・え。蜂屋って、お母さんの・・? でも、どうして?」
モニターに映っている蜂屋は、次の返答を待っているようだった。
蜂屋 遥人《はるひと》。30歳。
悟美は警戒心とともに、改めて冷静に観察をしてみると、玄関に立っている蜂屋という男性は、スラリと背の高そうな体型で、目鼻立ちのハッキリしたハーフ顔のイケメンである。
髪もフワッとパーマがかかり、スッキリとした爽やかなイメージが伝わってきた。
見た目の印象としては、悪い人には見えないし、むしろ好印象がもてる。
「あ、あの・・お母さんは、仕事に行ってます。」
悟美は、緊張した面持ちで、とりあえず返答した。
「あ〜、そうだったんですか。日曜日だから、休みかなあって思って来てみたんですけど。突然で、すいません。」
蜂屋の方から、申し訳なさそうに、丁寧な言葉が返ってくる。
悟美は会話をやり取りしながら、この人が母・純の携帯に、最近よくLINEを送ってくる人物だと再確認できた。
僅かではあるが、会話を交わした感じも、決して悪い感じはしない。
それでも、悟美の性格上、心の中の最後の砦として、油断をしないよう努めていた。
すると再び蜂屋が、話しかけてくる。
「では、純さんに、渡しておいて欲しい物があるので、お願いしても良いでしょうか?」
「あ、はい・・・。」
そう返答した後、悟美は冷静になって状況を考え直してみた。
今、安易に返事をしてみたが、母・純へ渡して欲しい物を請け負うという事は、玄関を開けてそれを受け取るしかない、という事ではないか。
しまった!と思ったが、いつまでもこんな状況を続けていても仕方ないので、早く受け取ってお引き取り頂いたほうが賢明だと考えた。
程なくして、悟美は玄関のドアを開けて、来客の蜂屋と対面する事になる。
恐る恐る警戒心とともに、ドアを開いて、じっと蜂屋の顔を見つめている悟美に対して、笑顔が返ってきた。
「こんにちは〜。悟美ちゃんだね? 初めまして〜。蜂屋といいます。」
悟美とは正反対に、満面の笑顔と大人の余裕で対応され、ますます圧倒されてしまう。
「あ、こんにちは。」
そんな挨拶が精一杯だった。
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