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間近で、蜂屋という男性と初めて顔を合わせたのだが、モニター画面で見た通り、スラリと背が高く細身の体型で、白いTシャツに濃いブラウンのカーディガンを着て、黒っぽいパンツを履いていた。
また、それよりも印象的だったのは、思っていた以上に目鼻立ちのハッキリしたハーフ顔のイケメンで、爽やかな雰囲気を漂わせている。
「確か、高校3年生だったかな。可愛いね。」
そんな事をサラリと言われて、悟美はどんな顔をして良いのか戸惑ってしまい、変に頑《かたく》なに無愛想な返答をしてしまった。
「あ、はい。高校3年です。」
蜂屋は構わず、白い歯をニッコリと見せながら話しを続ける。
「ごめんね。突然、お邪魔して。」
「あ、いえ・・・。」
悟美は片手で、開いた玄関ドアの取っ手を持ったまま、一言返すのがやっとであった。
「それで、この薔薇の花を、純さんに渡しておいてもらいたいんだ。良いかな?」
蜂屋はそう言いながら、自分が抱えていた真紅の薔薇の花束を、悟美へと渡す。
両手で、その薔薇の花束を受け取りながら、悟美は返答するしかなかった。
「あ、はい。大丈夫です。」
「純さんには、また僕の方からLINEしておくから。」
あくまでも優しそうな笑顔で、言う蜂屋。
悟美は玄関入口に、呆然として花束を抱えている。
「じゃ、またね。」
そう言うと、蜂屋はサッと踵を返して、手を振りながら去っていくのだ。
藤ケ崎家の前の狭い路地に、白い高級そうな車を停めてあり、颯爽とそれに乗って走り去っていく蜂屋。
悟美はしばらくその場で呆然と立ち尽くしており、こんなシーンはドラマか映画でしか見た事がなかった。
そう言えば、先日母・純が、話していた言葉を思い出した。
蜂屋さんは、優しいし、真面目だし。イケメンだし。銀行に勤めていて、若いのに係長をやってる、って。
とりあえず、やっと突然の出来事から解放された悟美は、家の中に入り玄関ドアに鍵をかけた。
そうして、フゥと深い溜息をつく。
玄関を上がり、手に抱えていた薔薇の花束を見つめた。
強い薔薇の匂いが、悟美を包み込む。
リビングへ向かうと、花束をそのままテーブルの上へと置いた。
休日なんて、あっという間に時間が過ぎていく。
その後も相変わらず、朝からルームウェアのまま、家の中で音楽を聴いたり、友人や同級生にLINEの返事を返したりしていた。
その時に、ふと目にした茜のLINEが目に付き、気になる悟美。
今日は、茜が言っていた日曜日。
何してるんだろう。
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