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やや立腹気味に言いながら、純は慌ただしく取り出した花瓶に水を汲んでいる。
「悟美〜。もう、この薔薇どうしたの⁈ ずっとここに置いてたから、花が萎れているじゃない! 花瓶に入れておかないと!」
それが売り言葉に買い言葉で、今日我慢を堪《こら》えていた悟美が、怒りを露わにした。
「その薔薇、あの人が持ってきた花だよ! 私には、関係ないよ!」
強い口調を返してきた悟美に、やや驚いて純が顔を見ながら聞く。
「あの人⁈ あの人って、誰? 今日、誰か来たの?」
悟美は、目も合わせずに言い返した。
「あの男の人だよ! 蜂屋っていう。」
「えっ⁈ 蜂屋さん⁈ えっ、今日蜂屋さんがうちにきたの⁈ えっ、何で⁈」
純は驚きの様子を隠せずに、信じ難い出来事に困惑している。
不貞腐《ふてくさ》れた顔の悟美が、更に答えた。
「何でって。私は知らないわよ! 本人に聞いたら?」
キッチンにいた純は戸惑いながら、リビングテーブルにいる悟美の所へと駆け寄ってきて問い詰める。
「えっ⁈ どういう事⁈ あなた、蜂屋さんに会ったの? 何か言ってた?」
その質問が、うざったらしいと感じた悟美は、手で払いのける仕草をして、また言い返した。
「会ったわよ! 何回もブザー鳴らすし! お母さんが居ると思って、訪ねてきたのよ!」
「はぁ・・・・・そうだったの。」
今日の出来事が段々分かってきた純は、力が抜けたような感じになって、とりあえずテーブル席につく。
思いをぶつけた悟美は、まだ不機嫌のまま、顔を背けていた。
少し沈黙が続いた後、再び純が口を開く。
「悟美・・。ごめんね。突然で、びっくりしたでしょ。私もまさか、蜂屋さんが家にまで来るなんて、思ってなかったから。」
それでも何も言わない悟美。
「あの人、悪い人じゃないのよ。・・・・・蜂屋さん。何か言ってた?」
冷静になりながら、純がまた尋ねた。
「別に・・。」
やっと、吐き捨てるように悟美が言う。
「そう。・・・私の方から、また蜂屋さんには、家にまで来ないように伝えておくから。」
まだ納得していない悟美は、不服そうに椅子に座った状態で返した。
「・・・私。あの人、あんまり好きじゃないし。私には、関係ない。」
「悟美・・。蜂屋さん、何か悪い事した? 突然、家に来たのは悪いと思うけど。悟美には何もしてないでしょ?」
純が諭すように伝える。
苛立ちを露わにしていた悟美は、大きな溜息をついて、テーブルにうつ伏せた。
「はあ〜。もう色々あり過ぎて、私にはもう分からない・・。」
「悟美・・・・。」
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