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茜は強いし、案外曲がった事が嫌いな性格だし。
友達として協力もしてくれない私なんかは、絶対に許せないはずだ。
思えば、本当に茜とは一緒に過ごしてきたし、理解ある良い友達同士だったけど。
この大きな亀裂は、どうする事も出来ない。
今まで、これほどの喧嘩をした事もないし、修正するのは到底無理だろう。
そんな事を考えながら、悟美はどんどん自暴自棄になり、絶望感を感じていた。
今日も茜に、話しかける事すら出来ずに放課後を迎えようとしている。
確か昼頃ぐらいまで青空が見えていたはずなのに、いつの間にか曇り空に覆われ辺りは薄暗くなっていた。
そうして、バラバラと激しい音を立てて、雨が降りはじめる。
「何もかも、最悪だ・・。」
放課後になり悟美は、所持していたレインコートを下駄箱の入口で着ていた。
その後、降り続く雨を見渡して、駐輪場の方へと向かおうとする。
すると、すぐ傍の入口近くの隅の方で、雨宿りしながら雨の様子を伺っている茜の姿が目に入った。
どうやら、悟美の存在には気が付いていないようである。
悟美は、自分自身に言い聞かせるかのように、何も見なかったつもりで、その場を立ち去ろうとした。
そこで、ふと父・悟の手紙の内容が頭に浮かぶ。
『一、茜ちゃんには、明日悟美の方から気軽に話かけてごらん。』
気軽に話しかける状況じゃないでしょ。
こんなに雨も降ってるし。
悟美はまた、自分と父・悟に言い聞かせるかのように頭の中で呟いた。
レインコートを着た悟美は、ゆっくりとその場を離れる。
一方、玄関入口を出た所の軒庇《のきひさし》で、茜は降り続く雨を見上げながら、立ち尽くしていた。
「もう。何でいきなり雨になるのよ。」
ここから見渡す門までの敷地内や、立ち並ぶ木々などが、雨の景色に浸っている。
やがて、一向に止む気配のない雨の状況を見て、覚悟を決めたのか茜が空を見渡して言った。
「はぁ・・。仕方ない。濡れながら帰るか。」
一歩、降り続く雨のその渦中へと踏み出そうとした時、横から突然、何かを差し出される。
「えっ⁈ 何?」
茜が、自分の手元へと差し出された物を改めて見ると、それは紺色の柄が入った傘だった。
そして、その傘を差し出したのが、いつの間にか横に立っていた悟美だったのである。
「悟美・・・。」
俯き加減で、レインコートに身を包まれた悟美が、気まずそうな顔を覗かせていた。
「これ・・。傘。良かったら、使って。」
茜が自然とその傘を受け取り、少し沈黙した後、言葉を返す。
「あ、ありがとう。」
茜も、どこか気まずそうな表情をみせた。
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