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耳まで紅くした悟美は、俯き加減になったが、そんな様子を見ながら茜が伝える。
「ねえ。これから、村上くんの事がどうなろうと、私たちずっと友達でいようよ。」
その言葉に、悟美は心から喜びと安心で満たされ、笑顔になって返答した。
「うん。茜は、大切な友達だから。」
「ハハ。私もだよ。悟美は大切な友達。」
いつの間にか雨が上がっており、並んで家路に向かう二人の姿。
そこで悟美が、何かに気が付いて声を上げた。
「あ、虹!」
見ると、雨上がりのキラキラした町並みの上に、優しい虹が浮かび上がっていたのだ。
「本当だ。虹なんて、久しぶり!」
茜も、目を輝かせながら言う。
まるで、虹の方へと向かって歩いていくような二人であった。
ある日の夕方。
夕食を済ませた悟美が、リビングテーブルの向こう側にある二人掛け用のソファに寝転んでいた。
目の前のテレビで、何か番組があっていたが、見る事もなく休んでいる。
食器を洗っていた純が、その状況に気が付いて、少し大きめの声で呼びかけた。
「悟美〜。あなた、薬まだ飲んでないでしょ!」
それに対して、憂鬱そうな顔で朧《おぼろ》げに返答する悟美。
「ん・・。ああ。まだ・・・。」
疲れているのか、食後に眠気がきているのか、悟美はそのままソファから動こうとしなかった。
再び純が、キッチンから呼びかける。
「悟美〜! 薬、飲みなさい!」
そんな声にも構わず、起き上がる事もしない悟美。
「・・は〜い。」
その様子を見兼ねて純が、洗い物の途中にも関わらず、悟美のいるソファまでやってきた。
「悟美〜! 薬を飲みなさいって言ってるでしょ!」
普段、それほど怒る事のない純が、この時ばかりは目を三角にして怒鳴りあげる。
「もう〜、分かってるよ〜。」
悟美は、渋々ソファから起き上がって、面倒臭そうな態度で言い返した。
純がこれほどまでに怒りを露《あら》わにしているのは、悟美が夕食後にゴロゴロと寝転んでいるからとか、食べ終えた食器も洗わないとか、そんな理由ではなかった。
悟美は頭を掻いた後、だらしそうにソファから立ち上がり、テレビ横にある棚の引き出しを探りはじめる。
そこへ純の声が、容赦なく追跡してきた。
「悟美。いつも言ってるよね。薬だけは、飲み忘れないようにって。」
悟美は、引き出しから必要分の薬を手に取ると、キッチンへと向かう。
「分かってるよ〜。」
「いや、あなたは分かってない。」
すぐに純が、厳しく戒めた。
キッチンで、コップに水を汲む悟美。
純が、その背中へ向けて、説教を投げかけた。
「薬を飲み忘れたら、どうなるか分かってるわよね?」
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