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「移植を待っている人は多くて、ほとんどの人がずっと待ち続けているのが現状だけど。3歳の私は運良く、どこかの誰かが脳死か心停止した為、献腎移植の方をする事が出来た・・。その人には、今でも感謝しているよ。」
純はその話を聞いて、両手をテーブルの上で合わせ、その時の事を思い出すかのように言った。
「私とお父さんは、微かな希望だとしても、それを願って、臓器移植ネットワークに登録して、その献腎移植を待っていたのよ。本当に、一日一日と待っていた。」
悟美は、そんな純をチラリと見ながら続けて言う。
「そうして、他人から頂いた腎臓を、やっと移植できたけど。それで全て解決ではないのよね・・。移植後に起こるかもしれない拒絶反応。これを起こしてしまったら、せっかくの腎臓をまたダメにしてしまう。」
「その通りよ。だから、拒絶反応を起こさないようにする為、内服を必ず忘れてはないないの。分かるでしょ?」
すぐに、純が諭すように伝えた。
それに対して、悟美は深い溜息を一つついて答える。
「分かる・・。忘れてないよ。薬を飲む事も。この腎臓をくれた人の事も。」
「今でも、本当にハッキリと覚えてるのよ。もう15年も経つのに。あなたが移植出来ると決まって、私もお父さんも本当に喜んだわ。」
純は、目に涙を浮かべながら言った。
それを噛み締めるように、言葉を返す悟美。
「お母さん・・・。ありがとう。」
そうして純は、テーブルから振り返り、隣の和室の仏壇に置いてある、悟の写真をじっと見つめていた。
数日後の日曜日の朝。
時計は、10時になろうとしていた。
ソファに座り、純がテレビを見ている。
洗面所の方からやってきた悟美は、ナチュラルメイクとオシャレなワンピースを着ていた。
「ん? 悟美。今からデート?」
横目で見ながら、純が尋ねる。
「そんなわけないでしょ。」
呆れた顔で首を傾げて、悟美が答えた。
やや恨めしそうな表情をして、純がまた言う。
「まあ、そうよね〜。せっかくの日曜日なのに、こんな遅い時間に出掛けるなんて。寝坊なの?」
「寝坊じゃないよ。仕方ないでしょ。今日は茜と映画を観にいく約束したけど。茜が昨日の夜、家族や親族らが集まって、バーベキューをするから、集合時間を10時にしたのよ。」
悟美が、口を尖らせて、正当な理由を告げた。
「ふ〜ん。色々と大変ねえ。」
純は、ソファでくつろいだまま、言葉を返す。
「まあ、女二人で、たまには映画を楽しんできなさい。」
話のやり取りで気が付かなかった悟美だったが、ふとリビングテーブルの上に、白い封筒を見つけた。
「えっ・・これってまた・・・・お父さんからの手紙?」
「あ、そうよ。さっき朝、届いてたみたい。」
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