5人が本棚に入れています
本棚に追加
悟美と茜は、その場に立ち尽くし、じっと村上の方を見つめる。
「む、村上くん・・。」
しかも村上は、店内の大きなガラスの窓際テーブルに座っており、一緒にいた若い女の子と一つのグラスに、ハートの形して二本になっているストローでドリンクを飲んでいるところであった。
先程まで、あれほど賑やかに話していた悟美と茜であったが、言葉もなくただポカンと様子を見ている。
街中で一瞬、時が止まったかのような状況に襲われたが、最初に口を開いたのは茜の方であった。
「・・・あ、あの女の子。隣のクラスの上原じゃん。」
それに釣られるように、悟美も言葉を発する。
「上原って・・。」
「ほら、学年でもトップクラスの成績優秀の子だよ。」
「あ、ああ。」
二人はまるで、万引きの決定的現場を目撃したかのように、しばらく放心状態で眺めていた。
「彼女・・。いたんだ。」
そうポツリと呟いた後、突然茜が声を上げて笑いはじめる。
「ハハハ! ハハハ!」
ビックリして、悟美は我に返り、茜の顔を見た。
何故か、それが凄く可笑《おか》しくて、悟美も釣られて笑いはじめる。
「ハハハ! ハハハ!」
「ハハハ! なんか笑えるね。」
そうして、茜の方が悟美へと促して、この場を後にした。
「悟美。行こうよ!」
「うん。」
二人はまた、映画館を目指して歩きはじめる。
「なんかさ〜、笑えるよね。まるでドラマみたい!」
「そうだね!」
そう言いながら、悟美はこの時、父・悟が送ってきていた手紙を思い出していた。
『悟美へ。
一、今日は、友人の茜ちゃんと楽しんでおいで。そして、その時に見た物・見た事を全て納得して受け入れなさい。』
ようやく、そこで悟美はニヤリと笑顔を浮かべるのだった。
「なるほど。この事だったんだ。」
映画館へと向かっていく二人に、ビルの間から明るい日差しが照らしつける。
数日後の夕方。
悟美は学校の制服のまま、珍しく仏間の部屋に座っていた。
その後、玄関からいつものように純が帰宅する。
「ただいま〜。」
そんな声を、2階の部屋にいるであろうと思っている悟美へ投げかけながら、リビングへと入っていった。
そこで純は、やっと悟美が仏壇の前に座っている事に気が付く。
「えっ? 悟美。何してるの?」
訝《いぶか》りながら、キッチンへ行った純が問いかけた。
「うん。ちょっとね・・。」
悟美は、そんな意味深な返答をした後、仏壇横にある引き戸を開けて、中に置いてあったダンボール箱を引きずり出す。
そのダンボール箱を開けると、たくさんの白い封筒が収められていた。
これまで、何通も送られてきた父・悟からの手紙である。
最初のコメントを投稿しよう!