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これまで悟美は、この手紙に興味を示さなかったのだが、改めて今までの分を一つ一つ取り出しながら見直した。
白い封筒で表書きはなく、裏の隅に差出人の父の名前だけが書かれている。
もちろん、差し出し人の住所や郵便番号などなかった。
見比べて見ても、どの封筒も全く同じ物で、記載されている事も一緒である。
その封筒の中身は、白いA4サイズ程の手紙が入っていて、シンプルにその時その時の内容が書かれているのだ。
それ以外は何もない。
その時キッチンから、いつの間にか純が和室まで入ってきていて、突然悟美に問いかけた。
「どうしたの? 今までのお父さんからの手紙を見直したりして。」
悟美は、腑に落ちない顔で質問する。
「うん・・・。お父さんって、本当にもう死んでるんだよね?」
その唐突な問いかけに、一瞬驚いた顔をした純であったが、すぐに呆れた表情で言い返した。
「当たり前じゃないの。今さら、何言ってるの?」
「うん・・。やっぱり、そうだよね。」
「そうよ。お父さんが亡くなってもう5年になる。あなたが、13歳の時だったじゃない。」
純が、仏壇に置いてある、悟の写真を見ながら言う。
「うん。それは、分かってるんだけど。」
それに対して、純が思い出すような表情をして話した。
「まあ時々、信じられなくなる感覚も分かるわ。私もそんな時があるから。お父さんは、35歳という若さで亡くなった。」
何通かの白い封筒を握ったまま、悟美が純の方を見る。
「お父さんが、もうこの世にいない事は、確かに間違いない事実だと思う。・・ただ。」
「ただ?」
「うん・・。ただね。おかしいじゃん。何で、その死んだお父さんから、今だに手紙が送られてくるの? それも、私たちの今の生活状況をまるで知っているかのように、内容を書いている。」
「ああ・・。」
純も、悟美の顔を見直して、それに納得をした様子だった。
そうして二人は、手紙の入ったダンボール箱を囲んで、静まり返った和室で話を続ける。
「悟美・・。よく聞いてね。確かに、お父さんはもう、いない。それでも、こうして手紙が送られてくる事に、正直私も分からない。」
黙って話を聞いている悟美。
純が、話を続けた。
「ただね。・・・これは悟美が、信じられるかどうか分からないけど。実はお父さんは、生前から特殊な能力を持っていたのよ。」
「へっ? 特殊な能力? 何?」
純は、あくまでも平静を保ちながら、言葉を選び話していく。
「私はもちろん、そんな特殊な能力なんてないから、よく分からないんだけど、ね。」
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