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テレビ番組内の男性研究者の話は続いた。
「長年にわたり、社会科学の分野でもそのことが認められてきました。専門家と言われる人々でさえ予測に失敗することが、多くの研究で示されているのです。2007年のHBR論文『予測の技術』では、予言・予想と、予測は全く別のものである、としています。つまり、未来を見通すことは、かように難しいと考えられてきたんです。」
悟美は黙ったまま、いつの間にか興味津々に話を聞いている。
男性研究者は、何か書かれたボードを指し示しながら、説明を続けた。
「ところが新たな研究によって、この状況が変わりつつあるのです。『予測』について、以前よりもはるかに多くのことが明らかになってきたのです。たとえば、予測に長けた人とそうでない人がいます。そして予測能力は、ある程度は学習可能であり、訓練によって誰もがその技術を磨く事ができ得る、という事です。」
「えっ〜、これマジ⁈」
思わず、悟美が呟く。
男性研究者がまた続けた。
「私たちはまず、人が未来を『予見』する際の脳メカニズムを確かめました。手掛かりは、記憶の利用です。つまり、人間は未来のことを考える際、多くの場合、過去の経験を参照しているからです。」
「えっ〜、そうなの〜⁈」
テレビに向かって、思わず言葉を発する悟美。
テレビの中の男性研究者は、何やら色々と画像のような物を視聴者に見せながら、解説していった。
「そして、結論から申しまして、『記憶』と『予見』とには共通して、人間の脳の前頭葉から頭頂葉にかけての大脳皮質の内側ネットワークが深くかかわっていることが分かったんです。」
悟美は、固まったようにじっとテレビを見続ける。
「記憶と予見は、構造や対応する脳の活動領域も驚くほど似通っているという事も分かってきています。」
男性研究者の話を聞いて、悟美が呟いた。
「・・・なんか、人の脳って、奥深いよね。」
その時、リビングのドアが開いて、玄関から純が入ってくる。
「はあ〜、ただいま〜。あら、悟美。今日はテレビ見てたの?」
「あ、うん。」
ソファから返答する悟美。
純は既に、キッチンにいて、冷蔵庫を開けながら話を聞いていた。
「そう。今からすぐに、夕飯作るから。・・あ、冷蔵庫に入っていたシュークリーム、食べたわね?」
そんな事を言われた悟美は、再びソファから答える。
「え? だって、他にオヤツなかったんだもん。」
それに対して純の方は、フライパンを出したり、水道の水を出したりしながら言い返した。
「私が食べようと思ってたのに〜。私の呪いが取り憑いて、悟美はブクブクと太っていくかもね。」
「な、何よ〜。その八つ当たり的な言い方は〜。自分だって食べてたら、結局太るんでしょ〜。」
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