5人が本棚に入れています
本棚に追加
キッチンで苦笑いしながら、純が言葉を返す。
「残念〜。私はね、太らないの。これからの人生、まだまだ自分を磨いて、いつまでも綺麗で健康に生きていくのよ〜。」
「はあっ⁈ 何よ、それ〜。意味分かんな〜い。」
納得がいかず、不満気味に言う悟美。
その後も、機嫌良く鼻歌を歌いながら、純は夕食を作った。
ソファの方から時々、その様子を窺いながら、悟美は首を傾げるのだった。
「何? 臨時ボーナスでも出たのかな?」
母娘の二人だけの夜がふけていく。
それから数日後。
まだ日差しの暑い時間帯に、学校から帰ってきた悟美が、門扉を開けて中に入ったところだった。
家の前の通路に、白い高級な車が停車する。
鉄の門扉越しに、悟美がその停まった車を見ていると、なんと助手席から降りてきたのは、母親の純だった。
「えっ?」
助手席から降りた純は、すぐに運転手の方へと手を振りながら声をかける。
「今日は、ありがとう。」
その瞬間、悟美が開いた助手席ドアから、中の運転席側を覗くと、見えたのはあの蜂屋という男性であった。
「うん。こちらこそ、ありがとう。また連絡するよ。」
そんな事を、純へ言った後、蜂屋はすぐに悟美の姿へと視線を移して、
「あ、悟美ちゃん。こんにちは。」
と挨拶してくる。
悟美の方は、気まずそうにしながら声も出さずに、コクリと小さく頭だけ下げた。
程なくして、蜂屋は白い高級車とともに、走り去っていく。
残されたのは、門扉を挟んで外と中に立つ母娘であった。
「ただいま。」
何事もなかったかのように、声をかけてくる純。
そんな母親を、不審な目で見返す悟美。
純は遠慮なく、門扉を開けて中に入ってきた。
そうして、そのまま玄関口へと向かおうとしたので、悟美は追いかけるようにして声をかける。
「あの人と、出かけていたの?」
純は、きちんと振り返らずに、首だけ半分向けて答えた。
「あの人って言わないで。蜂屋さん、って言ったでしょ。」
悟美が徐々に目についたのは、普段では見た事もないようなオシャレなその格好である。
細い腕を意識的に出した袖口と、黒いミニスカートのワンピースを着ていて、後ろ髪はゴールドに輝くバレッタでまとめ、耳には珍しくイヤリングを付けていた。
そうして、そのままバッグから家の鍵を取り出した純は、玄関を開けようとする。
「私は、あの人の事、嫌だって言ったよね?」
大きく玄関ドアを開けた純が、体を半分振り返らせて言った。
「どうして? 蜂屋さんは、凄く優しくて、良い人なのよ。」
不満そうに玄関前に立っている悟美。
最初のコメントを投稿しよう!