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その後、玄関内に入った純は、片手を横壁について体を支え、まるでフラミンゴのように片足立ちになったかと思うと、もう片方の手で、履いていたハイヒールを脱いだ。
そんな後ろから、悟美が話を続ける。
「良い人なんて、まだ分からないでしょ!」
もう片方のハイヒールを脱いだ純は、振り返りもせずに、言い返した。
「分かるわよ。蜂屋さんとは、今まで話をしてきたし。今日だって、ランチに行ってきたけど。もう何回も行ってるから。」
純は、そう言い残して、さっさと玄関を上り、中のドアを開けてリビングへと入っていく。
憤りを感じている悟美は、仕方なく玄関へと入ってドアを閉めた。
純の後を追ってリビングへと入った悟美だったが、その頃にはもう純自身は洗面所でイヤリングをはずしている。
そこで強気に、言い訳を含んだ話をしてきた。
「お母さんだってね。休みの日ぐらい、たまには気分転換したいわよ。」
リビングに突っ立っている悟美には、充分に声が聞こえてくる。
どうやら純は、そのまま洗面所で、着ていたワンピースも脱いでいるようだった。
「悟美は、まだ今日で会ったのが2回目だから、蜂屋さんの事をよく分からないんだろうけど。あなたももっと会えば、本当に良い人だって分かってくるわよ。」
洗面所の方から、純の声だけが聞こえてくる。
そのまま何も言い返せない悟美。
「お母さんだって、気分転換ぐらいしても良いでしょ。」
その言葉が聞こえた後、純が洗面所からキッキンの方へと戻ってきた。
その時にはもう、気軽なジーパンと白いTシャツ姿で、すぐに上からエプロンをかける。
頭の中がモヤモヤとして、気持ちの整理がつかない悟美だったが、勢いよく本音をぶつけた。
「・・じゃあ。お父さんは、どうなるの?」
エプロンをきちんと結びつけた純が、その問いかけに答える。
「どうなる、って? 何がどうなるの? お父さんはもう、5年も前に亡くなったのよ。いつまでも、それを引きずっていても仕方ない。」
それを聞いて、悟美は悲しい表情になった。
「仕方ない、って・・・・。でも、私のお父さんは、お父さんだったし。お母さんもお父さんと結婚していたんでしょ?」
「もちろん、結婚していたわよ。でも今、誰かと結婚するとか、しないとかの話をしてるんじゃないでしょ。ただ蜂屋さんは、良い人で、本当に良くしてくれる人なのよ。」
「さ、そうかもしれないけど・・。でも。」
エプロン姿の純が、キッチンの所から振り返り、凛とした態度で言い返す。
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