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悟美は、いつものようにタロットカードを取り出して手に取る。
シャッ。
シャッ、シャッ。
シャッ・・、シャッ・・。
何かを頭の中で念じながら、何十枚ものタロットカードをシャッフルして、順に捲《めく》られていく音。
カサッ。
シャッ・・、シャッ・・・。
悟美は真剣な表情で、タロットカードをシャッフルしては並べていった。
持っているカードをまた一枚、表を返して床に置く。
カードのイラストには、『太陽』と書かれていて、それが逆位置の状態であった。
深い溜息とともに、自分の部屋の床に寝転ぶ悟美。
「何だか、良くない方向へ行きそうな予感・・。」
モヤモヤとした憂鬱な日々が続いた。
そして、土曜日。
夕方、17時を過ぎようとしていた。
家にいた純は、クローゼットの奥に直し込んでいたトラベルバッグをリビングに引っ張り出してきて、その中へ今日の昼に買ってきたオシャレな衣服や下着を詰め込んでいる。
そんな様子を黙って見守りながら、悟美の足は自然と和室へと向かっていた。
静寂した和室の、仏壇の前へと座ると、悟美はじっと亡き父親の写真を見つめる。
「お父さん。・・・このままで良いの?」
写真に映った笑顔の父・悟は、もちろん何も返答しなかった。
ここ数日間、不安を抱えたまま、父からの手紙を期待して待っていた悟美は、そんな自分自身が一体何をやっているのか、自問自答している。
母親の人生を左右する緊急事態の時に、あてもない父からの手紙を待っているのだ。
普通の人からすれば、呆れた行動だろう。
ふと、そんな自分に気が付いて、これからどうして良いのか分からなくなって、いつの間にか、仏壇の前へとやってきたのだ。
もう力のない悟美は、肩の力を落として、希望を失った人間のように俯いている。
「・・・私だって、お母さんには幸せになってもらいたいと思ってる。お父さんだって、思ってるでしょ。」
小さな声で、かすれたように囁く悟美。
「でも、・・・これで本当に、お母さんは幸せになれるの?」
静まり返った和室に、ただの独り言が続いた。
薄暗い和室の部屋で、仏壇の前に正座し、今にも崩れ落ちそうな華奢《きゃしゃ》な悟美の体は、孤独の空間にいる。
「お父さん。何か応えてよ。・・・もう、手紙は届かないの?」
悟美の目から、涙がこぼれた。
笑顔の父の写真。
「お父さん。私とお母さんを守って・・。お願い。」
小さくも、どこか強く熱い想いのこもった声であった。
陽のない曇り空は、時間に関係なく、その暗さを辺りに包んでいく。
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