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その時、玄関口の所から、純の慌てた様子の声が聞こえてきた。
「悟美〜。ちょっと今から、ドラッグイレブンに行ってくるわね。お母さん、頭痛薬を買っておくのを忘れてた〜。」
そう告げて、そそくさと玄関を出ていく音がする。
再び悟美は、仏壇の前に黙って座っていた。
その直後、外の門扉辺りで、母・純の声がする。
「あ、はい。ありがとうございます。」
誰かと話していたようだが・・・。
と気になった悟美は立ち上がり、玄関の上り口の所まで行ってみた。
ドラッグイレブンへ買い物に行くと言って、外へ出たばかりの純が、今すぐ引き返してきて玄関ドアを開け、中へと入ってくる。
そうして慌ただしく、何かを悟美へ手渡した。
「あ、悟美。ちょうど良かった。今出掛けようとしたら郵便配達の人が来て、手紙が届いたと手渡していったのよ。はい、コレ。私はドラッグイレブンに行かないといけないから。」
悟美は、白い封筒に入った手紙を受け取ったが、純の方はそのまま慌てて玄関を出ていく。
手に持った白い封筒をその場で見て、悟美は思わず声を荒げた。
「はっ! お父さんからの手紙だ!」
そう言ったかと思うと、すぐにリビングへと駆け戻ってテーブルに腰掛け、封筒を開けてみる。
この父からの手紙が、届く事を何のあてもなく待ち望んでいた悟美は、はやる気持ちを抑えながら中から手紙を取り出した。
焦るような眼差しで、その手紙を目だけで追いながら読んでいく。
書かれていた内容は・・・。
『純へ。
一、蜂屋という男との交際は、やめておいたほうが良い。旅行も行かないほうが良いだろう。蜂屋という男と一緒になっても、幸せにはなれない。』
一瞬目を見開きながら、悟美は何度も目で手紙の内容を読み返す。
そうして、一つの結論を口に発した。
「これを、お母さんに見せなきゃ!」
30分ぐらい経った頃、純が家に帰ってくる。
「ただいま〜。私も旅行の前日に、薬を買いに行くなんて。本当、準備が悪い。まあでも、思い出して良かったわ。コレがあれば安心。」
リビングのテーブルに、神妙な顔付きで座っている悟美とは裏腹に、純はどこか陽気な口調で、ベラベラと話を続けていた。
そこへ、話を遮るようにして、悟美が話しかける。
「コレ。さっきのお父さんからの手紙。お母さん宛てだよ。」
「えっ? 私に? お父さんから? 何かしら?」
そうして悟美が、手紙を純へと手渡した。
黙り込んだまま、じっと手紙を読んでいく純。
少しして、平静を装った様子で、純が手紙を静かにテーブルへと置いた。
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