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純が悟美を見つめながら言う。
「お父さんは、これからもずっと、ずっと私と悟美の中で生き続けているわ。」
泣いている悟美が、純の向かい側へと座った。
「それなら、・・じゃあ、お母さん。ずっと、三人でいようよ。お父さんと三人で。」
それに対して純は、優しく微笑みながら悟美の手を握る。
それ以降は何も答えず、ただ悟美の手を握り、もう片方の手で頭を撫でるのだった。
そして悟美は、いつの間にか真っ暗な闇の中にいた。
周りには何もなく、悟美がただ一人で立ち尽くしていて、上も下も右も左さえも分からない。
永遠に続く闇。
「お母さ〜ん!」
叫んでみたが、自分の声も喉の辺りで詰まってしまっていて、周りに届かなかった。
それでも周囲を必死に見渡していると、遥か遠くの先に、豆粒ほどの小さな一つの光が見える。
それに気が付いた悟美は、その光目指して、走りはじめた。
けれど、自分の体が重いのか、或いは向かい風のような抵抗が前方からきているのか、はたまた体を何かに後ろへと引っ張られているのか、原因は分からないが、思うように前へと進めない。
それでも、前傾姿勢になって、遥か遠くにある小さな光だけを見つめて、一歩一歩前進していった。
ふと、どこからか誰かの声が聞こえているようだが、まるで水中の中で話しているみたいに、ハッキリと聞こえない。
声の主は分からないまま、悟美はとにかく、微かに見える光だけを目指していった。
そんな時、また声の主が何かを言っているようだったが、やはり水中で会話しているかのように、よく聞き取れない。
その途端、悟美は先程、遠くに見えていた光の出口へと突然辿り着いて、暗闇から脱出する事が出来た。
そこは、木々の生い茂った寂しい無人の駅。
悟美は一人、その駅のホームに立ち、辺りを見渡した。
草木の間からは、明るい日差しが差し込んでいる。
そのうちに、僅か2車輌の列車が駅へと入ってきた。
それを呆然と眺めている悟美。
誰もいなかったはずのホームに、いつの間にか二人の男女が立っていた。
よく見ると、なんとそれは母・純であり、もう一人の一緒にいた男性は、あの蜂屋という人だったのだ。
二人は、悟美の存在に全く気が付かず、到着した列車へと乗り込む。
慌てた悟美は、走ってその二人の後を追いかけた。
はずだったが、先程と同様、体が思うように動かず、走る事が出来ない。
悟美の体だけ、ゆっくりと時間が流れ、動作の全てがスローモーションのようにしか動かないのだ。
「待って・・。」
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