第三章 四月二十日の証

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 インターフォンが鳴る。  荷物を受け取る。相変わらずの重量だ。  四月二十日、と日付指定がされている。  カッターナイフを用いて、丁寧に開封する。  いちばん上に、たっぷりと文字を抱えた便箋。 「井ノ屋証先生、お誕生日おめでとうございます。三年前のちょうどこの日、『一色の虹』の見本をお届けしたことが懐かしいです。今年も、たくさんのプレゼントとお手紙が届いております。…………」 園井の整った文字を、写真の前で読み上げる。  段ボールの中で、今か今かと取り出されるのを待つ小包たちを、茉希と二人、ひとつひとつ並べていく。 「日付には興味がないみたいだけど、読者の皆様から届くお祝いには、本当に嬉しそうだったわよね」 「そりゃそうだよな」 すべてを整列させ終えると、そこはまるでパーティ会場だった。  クラッカーを鳴らす。「本日の主役」のたすきを、遺影の隣に。 「今年もたくさん届いて良かったなあ、悟」 「言ってたわよね、書くことで誰かの人生をほんの少し変えられたみたいって」 「プレゼント選ぶのって、意外と難しいからな」 それぞれの封はまだ開けていない。のんびりした悟のペースに、勝ってしまっては怒られる。 「お前が生きた証が、今日も誰かの人生に、小さな影響を与えてるよ」 「私たちにも、絶大な影響をね」 真司は、件の依頼を受けることに決めた。  悟が書き遺した小説を、言葉を受け取る。それに、返事を書く。  たとえ、相手が目の前にいなくても。  小説には、力があるのだから。 「お誕生日おめでとう、悟」 〔完〕
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