四日一殺

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四日一殺

…………………………………………………… 「善人はなかなかいない」     ~フラナリー・オコナー~ 恨み、妬み、嫉み、怒り、恐怖、義務、欲、女、男、快楽、猟奇、 今日も何かの理由で、いや理由がなくても 誰かが誰かを殺している。 …………………………………………………… ある小説家はスランプだった。 かつてはベストセラーを何冊も出した売れっ子作家だった。 しかし書くネタも尽き、仕事も減り、家族も去り、周りからも忘れ去られようしていた。 死んでしまおうか。毎日そう思うようになった。 そうだ、どうせ死ぬのなら、 誰かを殺して、それを小説にしよう。自分は小説家だから。 それなら殺害予告をしよう。 小説家はSNSで殺害予告をした。 「近いうちに誰かを殺します」 忘れ去られようとした作家の名前は一気に世間のトレンドになった。 冗談だとは思ったが警察も一応動きだした。 しかしそれと同時に作家は姿を消した。 小説家のSNSは毎日のように更新された。まるで連載小説のように。 社会全体が小説家のSNSに夢中になった。 警察は小説家の行方を中々探し出せなかった。 SNSの更新内容は大体こうだった。 ある人物の毎日を観察し、殺す機会をうかがっている。 いつ殺そうか? 今かな? いや今日は止めておこう。 また明日。 観察されている人物は男なのか女なのか老人なのか子供なのかは特定はされてはいなかった。 世間は最初嬉々として面白く読んでいたが、読み進むうちにこう思った。 「狙われているのは自分じゃないのか?」 観察されている内容が自分に当てはまる事がたくさんあった。 ・毎日の通学の風景。友達との会話の内容。 ・通勤電車の利用の時間帯、車両番号にその車内風景、隣の人物の服装。 ・テレワーク中に突然の誤配送の呼び鈴で玄関を開ける。 ・コンビニで買ったスィーツとコーヒーのサイズ、いつもガムシロを多めに取ること。 ・その時間帯に近所のスーパーに買い物に行き、薄力粉と重曹を買う。 ・週末ではないこの日に休みをとり、書いてある通りに公園にいる…、 などなど。 怖くなって外出を控える人が出た。 学校を休む学生も出た。 毒が盛られているのではと懸念し食事を中々とりたがらない老人ホームの老人も出た。 模倣したSNSも乱発した。警察は模倣犯を突き止めはしたが、 肝心の小説家本人はさっぱり探しだせなかった。 そしてとうとう小説家は誰かを殺した。 とSNSに投稿した。 それらしき場所でそれらしい人物がそれらしい死に方で死んでいた。 帰宅途中のサラリーマンの男がいつも夕食で立ち寄るファミレスで食事をした後、道端で突然倒れて即死した。男はアレルギー体質で、それが含まれないメニューをいつも頼んでいたのだが、なぜかその日だけそれが含まれているいつもと違うメニューを選んだ。 一応ファミレス全てのスタッフが警察に調べられたが皆シロ。男の家族、恋人、友人、同僚、仕事関係者もすべてシロ。だった。 世間は小説家が殺したと騒いだ。 しかし死んだ男と小説家に接点は無い。 ただの事故だという意見ももちろん多数あった。 SNSはさらに続いた。 まるで連載小説のように。 次のターゲットをまた観察し、殺す機会をうかがっている内容だ。 また小説家は誰かを殺した。 とSNSに投稿した。 それらしき場所でそれらしい人物がそれらしい死に方で死んでいた。 ある女子大生が帰宅途中に築40年の古いマンションの下を歩いていた。その時、外壁が落下し彼女に直撃した後即死した。普段彼女はそこを通ることはなかった。 警察は、女子大生の家族、恋人、友人、バイトの同僚を捜査したがすべてシロだった。 世間は小説家が殺したと騒いだ。 しかし死んだ女子大生と小説家に接点は無い。 ただの事故だという意見ももちろん多数あった。 SNSはさらに続いた。 まるで連載小説のように。 次のターゲットをまた観察し、殺す機会をうかがっている内容だ。 また小説家は誰かを殺した。 とSNSに投稿した。 それらしき場所でそれらしい人物がそれらしい死に方で死んでいた。 この現象はずっと続いた。人々は面白がりながらも不安になっていった。 半分冗談まじりに半分本気で、『今度は自分じゃないのか?』 ある日、ある男子大学生が普段から面白がって見ているその小説家の投稿を見ていた。 驚いた。 自分の部屋の描写がほぼ書き込まれていた。自分が朝行うルーテイン、乗る電車の時間、その日の授業内容、バイトの仕事ぶり、それは克明に書かれていて、自分をずっと観察し、付け狙っているかのようだった。 男子大学生はバイトの休憩中、大学もバイトも同じ友人に相談した。 友人も驚きながら言った。 「うん、俺もさ、今日の投稿見てさ、お前の部屋にそっくりだなって驚いた!バイトも同じこと書いてるからさ、なんだか怖くてさ…、」 「頼む!今日は泊めてくれないか!頼む!」 「おい、でもさ逆にヤバくね、死んだ連中ってさ、ほぼみんな自分がいつもすることと違うことして死んでるらしいじゃん!」 「俺もそれは考えた、でもさ、やっぱり怖いしさ!お前の家実家だし、お父さん、お母さんもいてさ、大勢いると安心じゃん…、」 友人は一見、快く引き受けたが内心穏やかではなかった。自分や自分の家族が巻き込まれたりでもしたら…、 バイトが終わり、二人で帰ることにした。二人ともなにも喋らず、うつむきながら普段はあまりしない歩きスマホをして、小説家の投稿を見た。 投稿内容は二人の行動と酷似していた。 友人の発案で一旦、最近できた人気のカフェに入ることにした。 店内はコロニアル風のインテリアでお客もたくさんいて賑やかだった。 二人はなんだかホッとし、空いている席に案内され、席につくと恐る恐るスマホを覗いた。 投稿は更新され、二人の行動とは別のことが書かれてあった。 二人はようやく笑顔になった。 「やっぱり勘違いだな、小説家だからさ、きっとうまく書けるんだよ」と友人。 「いや、すまん、俺も神経質になってさ」 「でもお前知ってるか、その小説家ってさ写真の人物とは違うらしいぜ、写真は出版社が適当に合成して作ったらしい」 「ああ、複数の作者がいてこの投稿の更新をしてるとかな、いろいろ噂があるな」 「もはや都市伝説だからな、口裂け女とかと変わんね」 「だな」 二人はカフェを出た。結局、ここまで来たからと友人の家に泊まることにした。 友人のスマホにメールがきた。 「おっ、母ちゃんから、玉子買ってきてくれだってさ、そこ曲がったスーパーが安いからさ、付き合ってくんね?」 「いいよ」 二人は道を右に折れた。 横断歩道を渡ってすぐに大きなディスカウントスーパーが見えた。 二人は信号待ちをしていた。 「ところでお前さ、小説家目指してたよな」と男子大学生は友人に訊いた。 「うん、でも全然へなちょこだよ、短編を小説投稿サイトに出してるけどな、ちょっと読んでみるか?、ホレ」と言って友人は自分のスマホを男子大学生に渡して見せた。 男子大学生はスマホを受け取り、ザッと目を通してみた。信号が青になって友人が進んだ。男子大学生は読み始めると面白がってスマホの画面を見続けながらも横目で友人が進むと自分も進んだ。しかし友人はすぐに足を引っ込めて戻った。男子大学生は気づかずそのまま進み続けた。 男子大学生はある箇所を読むと驚いて声が出なくなった。同時にけたたましいクラクションが鳴った。 トラックが男子大学生をはねた。 男子大学生は血だらけでピクリとも動かなかった。 友人は転がった自分のスマホを手に取った。 あわてて救急車を呼んだ。 その後、友人の口元は二ヤーっとして口角が上がった。 友人の小説にはこう書いてあった。 【………その信号は押しボタン式で、信号が赤にもかかわらず、xxxは信号を渡り、トラックにはねられ即死した。…………】 『…SNS投稿は今日は俺がなりすまして書いた。 だから、言わんこっちゃないんだよ。いつもと違うことするとさ、こういうハメになるんだよ。でもうまくいったな、コイツが死ねば大学院の研究室に確実に俺は入れる。都市伝説もうまく使えば殺しも簡単だし、アシもつかない…』 …………………………………………………… SNSはさらに続いた。 まるで連載小説のように。 次のターゲットをまた観察し、殺す機会をうかがっている内容だ。 また小説家は誰かを殺した。 とSNSに投稿した。 それらしき場所でそれらしい人物がそれらしい死に方で死んでいた。 ディスカウントスーパーの駐車場から車が急に飛び出した。 アクセルとブレーキを踏み間違えた運転手が ある大学生をはねた。 大学生は即死した。 死んだ大学生の両親は普段めったに行かないそのスーパーに、 息子がなぜ行ったのか分からない。と警察に告げた。 …………………………………………………… 四日一殺、終。
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