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七日一殺
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「善人はなかなかいない」
~フラナリー・オコナー~
恨み、妬み、嫉み、怒り、恐怖、義務、欲、女、男、快楽、猟奇、
今日も何かの理由で、いや理由がなくても
誰かが誰かを殺している。
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真夜中、二時を少し過ぎた頃、
LINEが来た。
女は20代のOLで
明日は休みということもあって、
タブレットをベッドに持ち込んで
大好きな海外ドラマをイッキ見していた。
スナック菓子を頬張りながら、目はドラマに夢中になりながらも、
枕元にいつも置いてあるスマホをまさぐり、
手に取って画面を見た。
少し驚いた。
1年ぶりくらいの女友達からのLINEだった。
『ひさしぶり!』と女友達。
『ホントひさしぶり!』と女は返した。
彼女は2年ほど前に別の女友達の紹介で知り合った女の子だった。
顔がとても可愛くて、男にモテたが、
そんなことを鼻に掛けるタイプではなかった。
時々、奇妙なことを言ったり、突然いなくなって連絡がつかなくなったりして変わったところもあったが、面白い娘だったので一時期よく一緒に遊んでいた。
そして、また連絡がとれなくなり、そんな性格だから、あまり心配もせずに放っておいて、1年ほど経った今日、連絡が来たのだ。
『どうしたの?』
『じつは!』と女友達。
『ん?』
『……………………』
『ん?』
『赤ちゃんうまれたの!』
『えー!』
彼女は自分と同い年で23歳だ。でも彼女のことだから、こんなサプライズもあるだろう。
急に結婚して、いや結婚より先に子供を授かったとしても彼女のことだから、ありえることだな、女はそう思った。
『いつ!』
『いまさっき』
女は首を少しかしげた。『いまさっき?』この娘、久しぶりに連絡来たかと思ったら、またヘンなこと言い出すな。訳もわからずとにかく返事を返した。
『どういうこと?病院?』
『……………………』返事がない。
女はしばらく返事を返さず画面を見て返事を待っていた。
しばらすると、
画像が送られてきた。
女は画面を凝視した。
これは一体、なんだろう?
女はスマホを顔に近づけた。
ようやく分かった。
言葉が出なかった。
何かの悪戯と思った。
画像には赤ん坊が写っていた。
しかし、本当に生まれたばかりの血にまみれた小さな赤ん坊だった。
『なに』思わずそう返事を出した。
『……………………』返事がない。
女は生々しい、生まれたばかりの赤ん坊の画像をもう一度よく見た。
生命が世に出てきた一番最初のグロテスクな血とシワといびつなかたちは人間の赤ん坊といえども、いや人間の赤ん坊だからか、背筋が凍るほど、ゾッとした。
どうやら、写真が撮られたのはその女友達の部屋の中のようだった。
何度か遊びに行ったので、見知っている家具や、間取りが少し見えた。
赤ん坊はフローリングの床に置かれていた。
へその緒が伸びていた。
『へやのなか?』恐る恐る言葉を返した。
『……………………』返事がない。
しばらく待ってもLINEの返事は来なかった。
女は、彼女が、何らかの理由で自宅で出産し、急に体調を崩してしまい、もしかして命にかかわることがあって連絡が途中でできなくなったのでは?と判断した。
女は、彼女の住所を知っていたので、事情を説明して急いで救急車を手配した。
まだその住所に住んでいるなら、女のマンションからは電車でも1時間30分くらいはかかったし、今は真夜中で電車もない。不安と同時に変わり者の彼女のことだから、何か、悪気のない悪戯か何かかもしれない、などと混乱した頭で考えていた。
女は彼女に電話し続けた。
繋がらない。
LINEも出してみた。
『ね、だいじょぶ?』と女。
『……………………』返事がない。
『だいじょぶ?』
『……………………』返事がない。
返事が全くない。
女は一応、警察にも電話をした。警察は近くの警察官を送ってみる。ということだった。
朝の4時頃、警察から電話があった。確かにその女性は今でもその住所に住んではいるが、姿が見えない。何か事件に巻き込まれた形跡もない。赤ん坊らしき者ももちろん居ない。救急車も到着してもらったが、何事もなかったので帰ってもらったという内容の連絡だった。
女は謝罪し電話を切ると、もう一度スマホを見ようかどうか迷ったが、怖くて見られないのと、とても疲れていたのでそのまま寝てしまった。
それからどのくらいたったのか。
LINE通知がした。
バイブレーションがベッドを震わせた。
女は深い眠りにもかかわらず、
胸ぐらを摑まれた勢いで起きた。
きっと彼女からだ。
あわてて、スマホを持ち上げ画面を見ると、
『ごめーん』と女友達。
女は呆れた。心配していたことが馬鹿馬鹿しくなり、腹も立ったので、理由を聞くのも無視してスマホをベッドに放り投げ、また眠ろうとした。
LINE通知のバイブがまた震える。
女は無視した。
LINE通知のバイブがまた震える。
女はまた無視した。
LINE通知のバイブがまた震える。
女はようやくふてくされてスマホを取り出すと、
画面を眺めた。
何度も画像を送っていた。
それは、
バスタオルのようなもので包まれた
赤ん坊だった。
バスタオルには血がついていた
赤ん坊は多分、彼女に抱っこされて、彼女がスマホで撮影しているようだった。
それに、どうも、歩いて移動しているみたいだ。
画像に移る景色が外なのだ。
そして時間は多分、今。
早朝、5時を少し回っている、
今。
コイツ一体なんなんだ?
女は恐ろしくなった。
返事が来た。
『今、向かってるんだ』
女は怖くて返事をしなかった。
『赤ちゃん、見てほしいの!』
女はしばらく返事をしなかったが、落ち着いて、よく考えて思い出すと、この娘は本当に世間知らずで、両親も確か幼い頃離婚して、施設に入れられたり、何人かの親類に引き取られては、追い出されたりして、まともに人の愛情を知らないのかも知れない。自分も子供を産んだことはないが、一般常識としての多少の知識はある。しかしこの娘この場合は本当に何も知らないのかもしれない。
女は返事を返した。
『ね、病院行ったの?』
『……………………』返事がない。
しばらくして、また画像が送られてきた。
いや、今度は動画が送られてきた。
シチュエーションは一緒で、
彼女が赤ん坊を抱っこし、それをズッと写している。
赤ん坊が動いているのか、女が歩いているから揺れているのかは分からない。
女は怖くて、スマホをまた放り投げた。
しばらく何もないまま時間が過ぎた。
LINE通知のバイブがまた震えた。
女は無視した。
LINE通知のバイブがまた震えた。
女は無視した。
LINE通知のバイブがまた震えた。
女は恐る恐るスマホを持ち上げ、画面を見た。
画像が送られていた。
もう、赤ん坊の画像ではなかった。
女は少しホッとした。
そして、もう一度送られてきた画像を見た。
女は目を凝らして見た。
どこかで見た風景だった。
それは女の住んでいる町の駅前付近だった。
そして、
彼女からこんなメッセージが来ていた。
『もう少しで着くんだけど、』
『このあたりって、今日、燃やせるゴミの日?』
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七日一殺、終。
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