向日葵の君へ

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 それに、恋人がいないこともよく理解していた。訪れる度にゴミ屋敷と化す部屋に異性を呼べるわけがないし、仁の外出着は全て美織が購入しているものなので彼がデートに着ていく服は持っていない。  それでも首を縦に振らない美織に痺れを切らしたのか、恐る恐るといった様子で仁が口を開く。 「誰か、一緒に住みたいやつがいるのか?」 「いないけど」  即答すると仁は安心したのか肩の力を抜く。そうめんを器に盛ると既製の麺つゆを入れて、テーブルまで運んでくれた。 「なら問題ないな」 「なんか強引だね。珍しい」  仁の対面に座った美織は(いぶ)しむ視線を送る。美織が身の回りの世話をする事は絵を描くためにしているとばかり思っていた。自分のテリトリーに招くなんて何かあるのだろうか。 「……別に」 「いつか彼女さんができた時、出てけって言わないでよ」 「言わない」 「ふうん、私のやることに文句いわない?」 「……内容にもよる」  あまりにも嫌そうな顔をするものだから美織は吹き出した。それでも一緒に住む提案を下げないので、美織は不思議に思いつつもいい条件ではあると考える。仕事の傍ら、仁の世話を焼くとどうしても週に一回や二回程度が限界だ。共に暮らすなら毎日世話を焼くことができるし、家賃などがタダ。ありがたすぎる。  でも、と美織は疑念する点を口にする。 「私、また怒らせるかもしれないよ」 「怒る?」 「あの絵、布がかかったやつ。気になったら見ちゃうから、仁くんがストレス感じちゃうかも」 「……あの絵は」  ぽつり、と仁が言葉をこぼす。 「まだ、未完成なんだ。完成したら、美織に見せるつもりでいる。それを、未完成の状態で見られたくなかった」 「いつ完成するの?」 「……分からない。二十年も完成しない」  ふうん、と美織は鼻を鳴らす。 「じゃあ、いつか完成したら見せて?」  仁は返事をしなかった。だが否定をしないということは了承したと受け取ってもいいのだろう。美織は小さく笑みを零して、ふやけたそうめんを口にした。
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