ちぐはぐな夫婦

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ちぐはぐな夫婦

「子どもを育てるならまず、子育てがしやすい環境で、さらに教育が充実してないといけない」  力強くそう言い切ったのは、男性の方。アユムだった。 「それならやっぱり、火星じゃないかしら」  答えたのは、シズカ。  彼女の言う通り、火星は地球の次に経済が発展している星と言われており、比較的都会らしい暮らしが営まれている。各種施設は数多く存在していて。保育園や学校も例外ではない。  充実した教育を望むなら、まず検討すべきところだ。 「いや、火星は最近治安が悪いそうじゃないか。子どもを育てるには危険かもしれない」  確かに、彼の主張は間違っていない。  人口が増加を続けている火星では、ここ最近治安が悪化しており、物騒な報道が後を絶たないのだ。 「でも、そんなこと言ったって……そんなんじゃ、引越し先なんていつまでも決まらないわよ。じゃあ、ほら……この星なんかどうかしら」  シズカが指し示したパンフレットを一瞥してアユムは言った。 「そこは、地球から遠すぎるじゃないか。いざっていうときに、僕や君の家族が駆けつけるには不便だよ」 「そうかしらねえ」  アユムが子どもや子育てのことを真剣に考えているからこそ、こんなに理想が高いのだとは、わかってはいる。けれど、どうにも同調しかねるシズカなのだった。
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