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第2話 音が消えた日(2)
案の定、審査の結果はボロボロだった。
今でも覚えている言葉がある。
『私はあなたに期待していたのに残念だったよ。君が1番プロのピアニストと互角だって噂されてテレビでも報道されていたのになぁ〜。期待して損だったよ…』
これは審査の代表から言われた残酷な言葉だった。
僕は審査の人たちから演奏に関する批判を受けた。
『どうして暗譜していなかったんですか?』
『オリジナルとか大会には必要ないから』
『君は今ここにいる人たち全員の期待を裏切ったんだよ!』
『今の君にピアノで世界を掴むのは無理だね』
と散々なことを言われ続けた。
僕は、
『すいません、すいません』
と泣いて謝ることしかできなかった。
大会の帰り、車の中の空気はまさに地獄だった。
車の中で僕は、
(僕がお母さんたちの期待を裏切ったんだ…)
そんな悲しくて辛い気持ちでいっぱいだった。
審査員のあの言葉が耳から離れず僕は自分を恨んだ。
家につくなり、僕は両親に謝った。
『お父さん、お母さん、ごめんなさい。期待を裏切ってごめんなさい。暗譜してなくてごめんなさい。ごめんなさい。』
泣きながら自分の失敗を憎み、誠心誠意謝った。
そんな僕を見て、
『律!』
ギュッ!
お母さんは僕の名前を読んで、強く強く抱きしめてくれた。
『そんな事言わないで…律はよく頑張ったのよ。自分を責めないで。お母さんは律のピアノが好き!あの曲のアレンジもとても良かった!』
そう言って僕を慰めて褒めてくれた。
『そうだぞ、律。誰が何と言おうと律の音はきれいだよ。お父さんも律のピアノが好きだ!』
とお父さんも僕を慰めてくれて、強く抱きしめてくれた。
『お父さん、お母さん、ありがとう…』
僕は2人の胸の中で泣いてしまった。
両親のおかげで少しは落ち着いたけど、やはりあの日の出来事は僕を今でも縛り付けた。
僕は5年間の大好きだったピアノを弾くことも聞くこともやめて音楽の全てを遠ざけた。
そんなある日…。
『律、ピアノを弾いてみたらどお?お母さん律のピアノが聞きたいな!』
『お!お父さんも律の音を聞きたいな!』
と僕を心配して両親がそう言ってくれた。
(そういえばピアノ全然弾いてないな…)
『お母さん達が聴いてくれるなら弾こうかな…』
僕は2人に見守られながらピアノの前に座った。
そして、いざ弾くとなった瞬間…。
『…』
僕は最初の1音を弾いた瞬間に手を止めた。
『どうしたの?』
『急に手が止まってどうした律…』
お母さん達が心配して僕のそばに来た。
僕は両親をよそにもう1度鍵盤を押した。
『…』
『お母さんこの音聞こえる?』
そう言って僕は何回か鍵盤を押し続けた。
『え?聞こえるけど…どうしたの?』
両親はお互いに顔を見合わせて頭を傾げていた。
『どうしよう、僕音が聴こえない…』
『…!?』
その言葉に両親は驚いていた。
『お母さんたちの声や他の音は聴こえるのに…。ピアノの音が、テレビで流れてる音楽の音も聴こえない…』
僕はその日から音が聴こえなくなった。
でも、手は覚えているから聴こえなくてもピアノは弾ける。
ただ聴こえないのにピアノを弾くのは退屈でしかなかった。
『僕は音楽の音から見放されたのかな…』
『僕は音楽なんか大っ嫌い!』
そう思った出来事だった。
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