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夕食の片付けを済ませてしばらくすると、玄関ドアが開いた。
「あ、結月帰ってるじゃん。おかえり~」
何も知らずにやってきた雅人は、呂律が回らない口調で楽しげに言った。実際には、“戻ってきた”が正しいのだろう。
「飲みにいってたの?」
「うん、そう。今日仕事休みだから午前中にここ来たんだけど、もう結月いなくて。時間潰してから友達と飲みに行って、その後カラオケ行って」
「で? 何それ」
雅人は大きな紙袋を抱えて、意味ありげに微笑んでいる。嫌な予感――
「何だと思う? すげえよ! ジャジャーン!!」
――え、また!?
心の声が漏れそうになった。
「可愛いだろ? カラオケ店にあったUFOキャッチャーでゲット!」
雅人は巨大なクマのぬいぐるみを抱き上げ、満面の笑みを浮かべている。
「うん。確かに可愛いけど……持って帰ってね」
「え、いらねえの? 結月の為に必死こいて取ったのに」
「いや、気持ちは嬉いんだけど……いつも言ってるでしょ? これ以上家に物を増やしたくないの」
付き合う時に真っ先に話したことなのに、いまだに理解してもらえていないことが腹立たしい。というより、そこまで問題視されていないのかもしれない。
人には、どうしても譲れないことや変えられないことがある。ルーティンだったり、それをしないと居心地の悪さを感じるような習慣は、変えろと言われてもなかなか難しい。
それでも、互いの意見を尊重し合える関係でいたいと結月は思う。仮に雅人が『ミニマリスト』の逆である『マキシマリスト』というなら、否定するつもりはなかった。
だが、あくまでここは、結月の家だということだ。
「そんなこと言ってたら、いつまでたっても同棲できねえじゃん」
このタイミングでその話を持ち出す恋人との同棲など、考えられるはずもなかった。
『いつか一緒に住みたいね』
それは、雅人と付き合って間もない頃に結月が言った言葉だった。それには、そうなりたいという願望と期待を込めていた。
結月の恋愛はいつも同じパターンを繰り返す。母性本能が強い結月は、世話を焼きすぎる傾向にあった。どうしても恋人を外で待たせることができず、すぐに合鍵を持たせ、時間がある時には作り置きをしておく。
やがて、“やってあげたい”という気持ちが、“やってあげなくてはいけない”に変わっていく。
男という生き物は、独り暮らしの女に魅力を感じるのだろうか。そうだとわかった途端、あわよくば上がり込もうという考えを持ち、恋人ともなれば頻繁に訪れ、やがて入り浸る。けれど、もしかするとそれは、結月自身がそう仕向けているのかもしれない。
最近、やたらと探し物をする時間が増えたと感じていた。仕事から帰ると、まずは部屋を片付けなければいけなくなった。処分することができない物がどんどん増え、片付けたくても片付けられないという状況にもやもやして何となく気持ちが落ち着かず、心にゆとりが持てなくなったようにも感じる。原因は、この部屋にある。というより――
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