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 突然だが私。飯山リサは死んだ。今、目の前では私の葬儀が行われている。死んだ原因は交通事故。よくある話だ。そんな私が呆然としていると、目の前が真っ白になった。 「ひゃっはー! ようこそ転生の間へ!」  そう言って登場したのは頭の軽そうな10代半ばぐらいの男の子だった。 「あー! いま失礼なことを考えたなー! オレの頭は軽くなんてねぇよ!」  私は最初に感じた「軽そうな」という言葉を飲み込んで彼の言動を見て改めた。軽そうな頭ではなく実際に軽いだろうと。しかし目の前の人物は、そんな私の頭が覗けるようだ。 「まぁいいや。君にどう思われようと、オレには今後の君に関する決定権があるからね!」  あまり不敬なことを考えると、やばいことになりそうだと思ったので話題を先に流す。 「今後の私に関する事ということは、人は死んだ先があるってことですか?」  これに少年が答える。 「とーぜん!」  エッヘンと踏ん反り返る少年。その態度が残念すぎることを無視して質問する。 「それで? 死んだ先は?」 「転生である!」  少年の言葉と共に、どこからかババーンという効果音が鳴った。 「転生……ですか」  あまりに普通の展開にそっけなく答えてしまう。効果音にも突っ込まない。しかし少年のテンションだけはヒートアップ。 「そう! しかも日本の若者向けに特別に異世界に転生させてやる! 喜べ! そして敬え!」  目がキラキラしているが、やはり驚きはない。というか普通に日本でやり直したい。異世界なんて嫌だ。少年にそうお願いしてみた。しかし…… 「残念! すでにこれは決定です! 君には異世界転生をプレゼント! というわけでレッツらドン!」  少年が、そう言葉を発して指をパチンと鳴らすと床に穴が空いた。落ちる。そう思った私は無意識にその穴の縁にしがみついた。 「ふんぬ!」  必死で穴から這い上がる私。それに少年が驚愕する。 「ちょ、ちょっと! そこは素直に落ちなよ! 何、這い上がってきてんのさ!」  私は穴から這い出て、少年へと掴みかかった。 「あんたねぇ! 突然、何すんのよ! 落ちるとこだったじゃない!」 「いやいやいや。落とすつもりだったんだよ!」 「ふざけんな!」  そのあとしばらく少年と侃々諤々とやりあった結果、彼の方が折れた。 「わかった。わーったよ! 何か能力をサービスするから素直に異世界に降りてよね!」  私は鼻息も荒く答える。 「何か異世界ならではの面白い能力が良いわよね!」  すると少年。ぶつぶつと独り言を呟いた。 「ったく、なんなんだ、こいつは! こんなやつ初めてだ!」  私は、そんな少年の呟きを無視して何の能力を貰うか考え始めたのだった。 ※ ※ ※ 「ねぇねぇ」  私が猫撫で声で少年にすり寄る。 「何だよ。気持ち悪いな」  そんな少年の言葉を無視して私は少年に尋ねる。 「錬金術とかの能力なんてどうかな?」  少年が白い目を向けて投げやりに答える。 「いいんじゃないの?」 「これから行く世界にある職業かな?」 「あると思うよ?」  少年の投げやりな態度に私は怒鳴る。 「思うよって何よ!」  すると少年は言った。 「いちいち下界のことなんて知らないよ! ボクの役目は彷徨える魂を見つけたら異世界へ転生させるだけだからね!」 「ふぅん。そっか。分かった。しょうがない。それじゃあ私、ここに残る!」  すると顔を青ざめさせる少年。 「ちょっと! 突然、何を言いだすのさ!」 「じゃあ私が希望した職業が転生先の世界で通用する仕事かを教えて!」  少年が、ぐぬぬと唸る。しばらく私と睨み合った末にやはり少年が折れた。 「はぁ。わーったよ。調べる。調べるよ。ちょっと待ってて」  そう言ってしばらく待つ。少年は先程の穴から下界を眺めている。その結果…… 「あるよ。錬金術。ある。地球のそれとは違う。モノホンの錬金術がね。成功すれば地位も名誉も望むだけ手に入る職業だ」  そう言って私に視線を向ける。 「これでいい?」 「おっけ! じゃあそれで!」  交渉成立。私は穴の縁に立つ。 「これ! 落ちても大丈夫なんでしょうね?」 「大丈夫も何も君は既に死んでんの! これ以上はどうもならないよ!」 「りょーかい! そんじゃ。ばいばい!」 「はいはい。さようなら」  そう言って私は穴の中に飛び込んだ。その落ちる瞬間。少年がニヤリと笑ったのが見えたのだった。
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