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「エレス! 筋肉だ! 筋肉を鍛えるのだ!」 「はい! お父様!」 「いざという時。困った時は筋肉に問え! きっと応えてくれるはずだ!」 「はい! お父様!」 「左の拳を制するものは世界を制す! 左だ左!」 「はい! お父様!」  私は生まれた。  そこは地獄だった。  人によっては良い家かもしれないが、少なくても私にとっては地獄のような家だった。  生家は筋肉で出来ていたのだ。バイデン伯爵家という軍人の家系で先祖代々それで飯を食っている脳筋の家系。  そして私は、もうすぐ成人の15歳の歴とした貴族家の子女。いずれは同じような脳筋の家に嫁に出される手はずになっているらしい。最低か!  そのために5歳から基礎トレーニングを積まされた。7歳にはすでに筋肉を鍛えさせられ、10歳になって、ようやく拳や蹴りを放つことを認められた。  いや。そんなんいらんねんとは言えなかった。  それもこれも、この世界の家族が私を愛してくれていたからだ。  だから頑張った。そして何故か私には武の才能があるらしい。私の能力は錬金術じゃなかったんかい! 「蹴りは腰を入れるんだ。腰! そう! その調子だ!」 「はい。お父様!」  どうしてこうなった!  そして私は今。真冬の、しかも雪の降る城の庭園で自身の筋肉を鍛えている。身体からは大量の汗が吹き出て、しかも湯気まで立ち上っている。気温と体温の差のせいだ。  あんの少年神!  私の生家は私と相性がとことん悪いようだ。 「集中しろ! エレス! 筋肉だ。躍動する筋肉に集中しろ!」 「はい! お父様!」  毎日。毎日。筋肉がどうしたとか、力こそパワーとか意味の分からないことばかり言いやがって!  私は知的に本とか読みながら、メガネをクイってやりたいんだよ!  錬金術で大金を稼いで怠惰に楽して生きたいんだよ!  それなのに!  それなのに毎日毎日、筋肉筋肉って!  筋肉は虐めてこそ輝くとか。  上腕二頭筋がどうしたこうしたとか。  馬鹿じゃないのか!  こんの脳筋バカ親め!  私は密かに誓う。  成人したら家を出ていったるんじゃー!  そして知的に優雅に生きてやるんだ!  そして、のんびりスローライフするんだもんね!
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