春の終わりに

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 春の終わりは、残酷だった。  入試の日。ずっと想いを寄せていた人が、デートに出かけるところを見てしまった。私の友達と手を繋いで歩いているところを見てしまった。  二人は、推薦でそれぞれすでに合格をもらっていた。元から、住む世界が違った。いくらそう思おうとしたってどうしても忘れることが出来なかった。  二年半もずっと想ってきた人だったから。簡単に忘れることなんて出来なかった。そしてその相手が友達だったから、余計に忘れることが出来なかった。もちろん彼が好きだとかそういう話はしたことがなかった。彼女は、彼氏と別の大学に進学することになったと言っていた。彼氏が誰かなんて別に興味がなくて聞かなかった。思いもしなかったんだ。その彼氏が彼だとは想像もしていなかった。  彼と初めて会ったのは、一年生の時だった。先生に勧められて参加したオープンキャンパスで出会った。初めて来る街、広いキャンパス、知らない人ばかりで緊張してしまった。その時、同じ制服を着た彼が声をかけてくれた。クラスがちがったから、誰かは知らなかった。それでも、同じ高校の人がいる。ただそれだけで安心したんだ。初めて話す人だった。それでも、話してて楽しかった。興味がある分野も同じで話があった。受験だってあるから、恋なんて考えてはいけないんだろうけど、彼に恋してしまった。たった一回話しただけで惹かれてしまった。  結局、入試には全く集中出来なかった。  桜の花が咲く前に、サクラが散った。季節が春を迎える前に、春が終わってしまった。  今も忘れることができないのは、開花が少し早くて満開の桜の(もと)に行われた卒業式のことだった。  友達が、希望を胸にしている。楽しそうに四月の話をしている。彼が教室まで迎えに来ていた。たった一回話したきりの私のことを覚えていてくれた。それがほんの少しだけ嬉しくて、とても悲しかった。  そして何よりクラスメートの晴れやかな顔が羨ましかった。努力や頑張りが足りなかったことだってわかってる。周りの所為には、したくない。それでもただ羨ましかった。将来について話すクラスメートは、明るくて、私のところだけが沈んで見えた。
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