春の終わりに

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 バイトを始めて二週間が経ってから、一人の大学生が新しく働くことになった。彼は、私にとって初めてできたバイト先の後輩だった。もしかしたら、同期というべきなのかもしれない。けれど、彼は私を先輩と呼んでくれるだから私も彼を後輩君と呼ぶことにする。年上の彼をそう呼ぶのには、違和感があった。でも、次第にそれは慣れていった。  後輩君は、一つ上の大学二年生だった。私にとっては地元の大学に通っていた。後輩君は、大学進学のために、地元を離れて進学したと言っていた。後輩君の専攻分野は、興味がある方向とは違っていた。それでも、休み時間に聞かせてくれる話は、いつも面白かった。  梅雨入り発表がされた日。私は、あまりバイトに行く気になれなかった。  その前日にインターネットで公開された模試の結果がとても悪かった。4月に何となくで受験したときよりも悪かった。去年の同じ時期に受けた方がまだ良かったくらいだった。現役生に比べて浪人生の方が伸びにくいう話は何度も聞いた。  原因としては、親が言うように、もちろん慣れない初めてのアルバイトをしながら受けたというのもあるのだろうけれど、それ以上にその大学に合格したいという気持ちがなくなっていたことが原因だと、私は思う。それなのに、両親は、「次も同じような結果なら、バイトは辞めてもらう」と言った。  私は、途方に暮れていた。それでもバイトを休むわけにはいかなかった。接客業ということもあるが、私はできる限り明るく笑顔で仕事をしていた。まるで、女優のように明るい人を演じていた。  後輩君は。後輩君だけは、私の異変に気付いてくれた。後輩君は、バイト終わった時に「先輩。なにかあった。大丈夫。」と声をかけてくれた。それでも、私は、大学生という身分を持っている後輩君への嫉妬心から。「なにもありませんから。」とだけ言って足早に傘を握って飛び出した。大人気(おとなげ)ないなと思いながらも、そうするしかなかったと自分に言い聞かせた。
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