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Ⅰ.神子
「ごめんね、ごめん。本当に……」
「いいんだ、フィズ。もう気にしないで」
「だって……このままじゃ、リアスは」
「私とお前じゃ立場が違う。私はお前の影なんだから」
くしゃっと顔が歪んで、自分とそっくりな瞳から涙が幾つもこぼれ落ちる。生まれた時からずっと側にいたのに、今日からは離れ離れだ。そう思うと、まるで二つに引き裂かれるように胸が痛む。それでも弟がいればこの国は安泰だ。慈悲深き神ユタハは、神子のいるこの国を未来永劫守ってくださるだろう。
コンコンと扉を叩く者がいる。あれは皇国からの使者だ。
「御仕度は出来ましたか、神子よ」
「問題ない」
「では、すぐに御出立を。皇帝は神子のお越しを待ちかねておいでです」
「承知」
身一つで来いと言われ、私は言葉のままに立ち上がった。従者の一人も連れていくことは許されない。心配した弟は刻限になってもまだ、私の手を離さなかった。
「元気で、フィズ」
「リアス!」
護衛騎士たちが泣き叫ぶ弟の口を手で塞ぎ、体を抱え込む。私は振り返ることなく扉を開け、皇国の使者と共に馬車に向かった。
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