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僕と達己は黒フードの男たちに促されて、すぐに王宮の地下に連れていかれた。薄暗い階段を下りれば、不思議な文字の書かれた扉がある。先頭に立った者が手をかざすと扉が開き、白い光が見えた。静まり返った広い部屋の中央には、白く輝く水晶の箱だけが置かれている。まるで棺のような水晶から光が放たれ、その中に、重厚で威圧感に満ちた剣が眠っていた。
「うっわ、強そう……」
一目見て後ずさる僕とは反対に、達己は何も臆さずに剣を覗き込んだ。達己の肩が小さく跳ね、ぱっと白い光が弾ける。達己は僕を振り返った。
「なあ、この剣、俺にするって言ってんだけど」
「は? 俺にする、って」
呆然とする僕とは反対に、眉を寄せた達己の手には既に、眩しく輝く宝剣があった。
若きパラキオン王は厳かに言った。タツキこそは、剣に選ばれし勇者である。どうか魔王退治に向かい、この世界を救ってほしいと。
漫画や小説の中でよくある異世界召喚。そんなことをやってのけた国が、僕たちのいるパラキオン王国だ。この世界では、ごく稀に魔物を従える魔王が生まれ、世界を我が物にしようとする。一年前、西の果てで生まれた魔王は急速に成長し、村や町を次々に攻め落とした。国々はどこも必死で、己の領地と人々を守ってきた。
パラキオンには、過去に魔王を倒したと言われる一振りの剣があった。その剣を持てるのは、清廉な勇者のみ。剣は自分を持つにふさわしい者を選び、共に魔王を倒すという。ところが、世界中から集まった若者たちは誰一人、剣に触れられなかった。最後の望みをかけて、魔術師たちは召喚術を行った。そこに現れたのが、僕たちだったのだ。
「達己が勇者か。何か当たり前すぎて、ちっとも心に響かないな」
「全然、嬉しくないんだわ。勝手に呼ばれて魔王退治なんか、まっぴらだっての」
「……僕も達己と離れるのは嫌だなあ」
達己は大きく目を見開き、なぜか赤い顔をしている。熱でもあるのかと聞いたら、首をぶんぶんと横に振った。王の話を思い返せば魔王退治のメンバーはとっくに選抜済みで、後は勇者の参加を待つのみだった。何の力もない僕は、王宮で留守番をするしかない。達己と僕は、何とか魔王退治に参加せず元の世界に帰れないか、二人でここから逃げ出すことができないかと話し合った。
ところが、現実は厳しかった。翌朝、朝食後の散歩に出た僕たちの前に魔物が現れた。小さな猫がいると思ったら、見る間に牙だらけの化け物に変化した。真っ赤な口が視界いっぱいに広がり、恐怖のあまり声も出ない。噛みちぎられると思った瞬間、光が目の前を横切った。化け物を一閃で倒したのは、僕の前に飛び出した達己だった。
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