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剣の先で塵となって消えていく魔物を、達己は冷静に見つめていた。僕は、がたがたと震えるだけだ。大丈夫かと騎士たちが駆けつけて、ようやく我に返った。
「魔物の襲撃は、自分を倒す剣を得た者への威嚇でしょう。魔王と勇者の剣は、互いの目覚めを感じ取ると言われています」
魔術師の長の説明に、僕たちは動揺した。それじゃあ、魔王を倒さない限り、何度でもあいつらが襲ってくるってことじゃないか。
「ちょっと聞きたいことがあるんだ。魔王を倒したら、俺たちは元の世界に帰れるのか?」
達己の言葉に長は首を振った。召喚術と同じぐらい帰還術は難しい、おそらく無理だろう。そう言われて怒った達己が長に掴みかかったけれど、すぐに拘束された。僕らの人生は、あまりにも詰んでいる。
話し合いの末、達己は勇者として魔王の元へ向かうことになった。単に、それ以外に選択肢がなかったのだ。西の果てには魔王の居城があり、勇者の剣が導いてくれる。盛大なパーティが開かれ、王から声援が送られた。
「魔王を倒したなら、其方が望むままの褒美を約束しよう。肥沃な土地に財宝、我が妹も与えよう」
「そんなものはどうでもいい! 俺が帰るまで泉利を保護しろ。絶対に、指一本、傷つけるな」
思わず、泣きそうになってしまった。幼馴染は昔から、僕のヒーローで過保護だった。ぼんやりしている僕を庇って、絡んでくる奴を片端から叩き伏せていた。でも、今回ばかりは僕の事よりも、自分の事を心配したらいいのに。危ないところに行くのはお前なんだから。
達己たちが旅立つ日、たくさんの人が王宮につめかけた。人々が期待を込めて沿道から花を投げる。青空にぱっと鮮やかな花々が舞う。一度だけ、達己が振り向いて手を挙げたから、僕は思いきり手を振った。それっきり、幼馴染は振り返らずに行ってしまった。
残された僕は、神殿に住むことに決まった。後からわかったことだが、パラキオンでは魔術師たちと神官たちが対立し、権力争いを繰り広げていた。魔術師による勇者召喚で出し抜かれた神殿側が、僕の世話を買って出たのだ。
はあ、と大きなため息が出る。ここに一人残されて、どうしたらいいんだろう。人は生きているだけで価値があるというけれど、僕の存在価値は今、限りなくゼロだ。全部、達己におんぶに抱っこかと思うと、情けなくなる。
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