1.異世界へ

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1.異世界へ

 いつもと何も変わらない日だった。  自分がとんでもないことに巻き込まれるなんて、思いもしなかった。  僕には子どもの頃から仲のいい幼馴染がいる。家が隣で保育園から高二の今まで、ずっと一緒。ただ、平凡な僕と違って幼馴染は、神様の愛情を独り占めしたような子どもだった。きりりとした眉に大きな瞳、髪はさらさら。運動神経も良くて、走ればいつだって一番だ。小学校に上がる前からバレンタインチョコを独占するような子どもは、そのまますくすくと育った。成績優秀な幼馴染は軽々と、僕は必死に頑張って同じ高校に進み、僕たちは変わらず仲が良かった。  あの日はたまたま二人とも部活が休みで、久しぶりに一緒に帰った。校門を出て歩いていたら、クレープの移動販売車があった。僕はチョコアーモンドで、あいつはツナチーズ。一口寄こせ、お前食べすぎ、そんな軽口を言ってたら、辺りが急に暗くなったんだ。  天気予報は晴れだったはずなのにと空を見上げれば、いつの間にか黒雲が僕たちの真上にいる。ぐるぐる渦を巻くような変な動きをしたかと思うと、いきなり空が光って、一直線に雷が落ちてきた。 「えっ? やば」 「泉利(せんり)!」  ものすごい音がして、目の前の地面に穴が開く。僕の腕を掴んでくれた幼馴染のおかげで、雷の直撃は避けられた。ところが、雷は一つじゃなかった。さっきよりも大きな光が頭の上に落ちてくる。瞬時に思った。あ、これはだめなやつだと。  僕たちの頭の上で、光が炸裂した。  ――どこなんだ、ここ。  瞬きした後、僕はだだっ広い部屋の中に転がっていた。確かに雷が直撃したと思ったのに。  ものすごく高い天井から光が差し込んでいる。何だっけ、こういうの、確か聖堂って言ったような。真っ白な壁に、天井近くにはめ込まれた色付きガラス。僕たちの周りでは、円を描くように白い光が輝いている。 「泉利」  すぐ隣で、聞き慣れた声がする。自分の腕が、ぎゅっと掴まれたままなのに気がついた。 「たつ……き」  幼馴染が体を支えて起こしてくれた。目の前には黒いフード付きのローブを着た者たちがずらりと並び、こちらを見ていた。彼らから、わっと声が上がる。僕が呆然としている間、幼馴染の達己(たつき)は硬い顔をして前を見ていた。何が起きているのかと、にわかに不安が押し寄せる。 「大丈夫だから」  僕の心配を汲み取るように、幼馴染が囁いた。
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