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5.咲きこぼれる想い
「凪に話さなきゃいけないことがたくさんある。聞いてくれる?」
こくりと頷くと、司狼は僕を抱きしめたまま話し始めた。
――此花学園に入学した花食みたちは、個々が持つ能力を徹底的に調ベられる。知力・体力・精神力。人にはないとされる超常的な能力まで。花食みとしての能力を高めるために、花生みたちとの接触は推奨されている。
「……そういえば、校則は結構厳しいのに、恋愛には何も言わないね」
「この学園は、花食みと花生みの広大な実験場なんだ。国は花食みの能力を先々に役立てたいと思っている」
司狼は、自分にも人と異なる能力がある。それは『物体に残る、人の想いを読み取ること』だと言った。
「読み取る?」
「そう。物に触れると、そこで何があったか、残された思念から過去が浮かび上がってくる。学園を卒業した後、俺は国から依頼された捜査に参加していた」
過去探索と呼ばれる能力は、犯罪捜査で大きな力になる。ただ、捜査の間は関係者以外との接触は一切禁止された。捜査は長引き、司狼は僕の心配と渇望とで気が狂いそうになった。
「最初はすぐに解決すると思われた事件が、どんどん長引いた。でも、花体質を持つ者はそうそう周りにいない。凪に会うことが必要だとどんなに言っても、わかってもらえなかった。恋人にはもうすぐ会える、後少しの我慢だ。そうあしらわれるばかりだった。捜査で出会った官僚に花食みがいて、俺の状況をわかってくれた。それで、ようやく学園に連絡が取れたんだ」
思いもよらない話に呆然とした。じゃあ、昴は? と尋ねると、司狼はにこっと笑う。
「捜査は終わっていないから、学園に戻るのも条件がついた。事件のことは他言無用、他人としてなら少しだけ戻ってもいいと」
司狼の特徴を抑えて、異なる仕草や癖を紛れ込ませる。例え、学園で司狼を知っている人がいても、よく似た他人だと思えるように。司狼自身にも強い暗示がかけられた。一月は問題なく自我を押さえ込み、昴という他人になれるほどの。
司狼は僕の側に行けるなら、と条件を聞き入れた。
「でも、花生みと花食みの惹き付け合う本能は強い。俺はすぐに昴じゃいられなくなった」
「ぼ、僕。僕は対花なのに気づかなかったの?」
「いや、気づいてくれただろう?」
司狼が微笑む。転入初日に抱きついてきたし、俺が戻ってから、凪はとびきりたくさん花を咲かせただろう、と。
ああ、そうだ。花生みだからって、無闇に毎日たくさんの花を咲かせはしない。僕は司狼に食べてほしくて、それで。
――狂い咲くほどの花を咲かせたんだ。
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