355人が本棚に入れています
本棚に追加
一刻も早く僕を助けたかった司狼は、国に窮状を訴えながら僕の保護を願い出ていた。
「……凪を連れて逃げ出しても、この力がある限り必ず国は追ってくる。引き裂かれてしまったら、俺はもう生きられない。本当に遅くなってごめん」
僕はもう謝らないでほしかった。今はもう、ここにいるのだ。僕は司狼の首に手を回し、彼の胸に顔を埋めた。
「凪は、本当に可愛いな」
司狼は僕の髪を指で梳き、何度も何度も、好きだ、愛していると言う。その言葉を聞くと、この体のあちこちから、あたたかな力が湧いてくる。
「ねえ、司狼。僕、今ならきっと、幾らでも花を生むことができるよ」
「それは嬉しいけど、もう少し体力が戻ってからにしてくれ。心配で俺の心臓がもたない」
真剣な顔で言われて、僕は思わず笑ってしまった。辺りには柔らかな花の香りが溢れて、司狼はうっとりと目を細める。僕たちはどちらからともなく唇を重ねた。
それから少しして、司狼は昴として学園を去った。昴の存在はまるで最初からなかったかのように、人々の記憶から消えていく。
一月ほど経った、晴れ渡った日。
僕は簡単な荷物を整え、何もなくなった自分の部屋を見た。コンコンと扉が叩かれる。
「凪、支度できた?」
「うん。ごめんね、陽向。これからも学園には通うから」
「すっごく寂しいけど、仕方ないよね。対花は離れられないし、外から通う特例が認められるもの」
僕は、無事に捜査を終えた司狼と一緒に暮らすことになった。司狼は今回の働きで、これから先も国の特別公務員として働くことを懇願された。司狼は了承する条件として、僕と一緒にいることを強く主張したのだ。
「司狼さんは、いつ迎えに来る?」
「今、南門に着いたみたい。連絡が来たよ」
「そっか、いよいよかあ。……寂しいけどさ、俺、嬉しいんだ」
「え?」
「ようやく、凪が笑えるようになったから」
一生懸命笑顔を作る従兄弟を、僕は抱きしめた。陽向の手に、今朝咲いたばかりの芍薬を渡す。これは、彼への感謝から生まれた花だ。
「ありがとう、陽向」
陽向の目から、一粒の涙がこぼれ落ちた。
寄宿舎の前で、司狼が僕を待つ。
真夏の陽射しと変わらないぐらい眩しい笑顔で手を振っている。
「おいで、俺のブーケ」
司狼の腕の中に飛び込めば、彼が好きだという気持ちが体中から溢れ出す。
絡めた指と指の合間、爪の先の僅かな隙間からさえも。まるで咲くことを止めない花のように、彼を愛しいと思う気持ちが咲きこぼれる。
涼やかな風が吹き、僕たちの周りには柔らかな花の香りが舞い上がった。
【 完 】
✿~◦~✿~◦~✿~◦~✿~◦~✿~◦~✿
お読みいただき、ありがとうございました!
「ガーデンバースが書きたい!」の思いが募って書いた話です。
此花学園のシリーズとして、いつか短編連作にできたらいなと思っていますヾ(*´∀`*)ノ🌸
最初のコメントを投稿しよう!