1.花食みと花生み

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「凪、もしかして、花を生みすぎなんじゃない?」 「そ……うかもしれない」  思わず、曖昧な笑みを浮かべた。陽向には部屋の中は見せられない。陽向だけじゃない、誰にも見せるわけにはいかない。 「食堂に行こう。何でもいいから食べないと、体がもたないよ」  僕よりも小柄な従兄弟に手を引かれて、なんとか歩き出した。  この世界には『花生(はなう)み』と呼ばれ、思春期になると、体から花を生む人々がいる。そして、花生みの生み出した花を食ベて自らの栄養とするのが『花食(はなは)み』たちだ。どちらもごく僅かしか生まれず、世の大半の人々は、花体質を持たない一般人だ。  花食みは特異な能力を持つ者が多くて、国からは特別保護の対象となっている。そして、彼らに花を提供する花生みたちも。  僕たちが通う国立の此花(このはな)学園は、花生みと花食みしか入学できない。花体質の兆候が現れた者はただちに検査を受けることが国から義務付けられている。花生みや花食みだと判明すると、この学園への進学を勧められるのだ。学費も寄宿舎にかかる費用も全て国費で賄われ、花体質の者たちへのケアも充実しているとあって、入学を希望する者が大半だった。  広大な敷地には中等部と高等部があり、二つの学び舎を中心に、花食みが北、花生みが南の寄宿舎に住んでいる。全ての学生は原則として寄宿生活を行う。 「凪、苦手な食べものは特になかったよね?」 「うん、大丈夫」  食堂に着くと、陽向は僕を窓際に近い席に座らせた。風通しがよく、直接陽射しが当たらない場所を考えてくれる。従兄弟の気遣いが嬉しくて胸が詰まった。  食堂には和洋中、三種の朝食セットがあり、足りない者の為におにぎりやサンドイッチ、栄養補助用のドリンク類も揃っている。陽向は僕の分を先に取ってくるからと走っていった。彼は幼い時から、僕を守るのが自分の役目だと思っている。  小学六年生になったばかりの春に、僕は初めて花を生んだ。微熱が続き、心配した母が学校を休ませた。横になっていると、左の鎖骨にまるで火傷したような痛みが走る。泣きそうになったところで、ふっと体が楽になった。甘い香りがして、目の前に可憐な白い花が転がっている。まさか自分の体から生まれたなんて思わず、びっくりして母の元に持って行った。 「これは芍薬(しゃくやく)よ。変ね、うちにはどこにもないのに」 「しゃくやく?」 「そう。もう少し後に咲く花よ」  首を傾げながらも、綺麗、と母は花を飾ってくれた。ところが、それから一月も経たないうちに、陽向が僕の元に一輪の花を持ってやってきた。 「これね、俺の手首から出てきたの。誰にも言っちゃダメってお母さんたちに言われたけど、凪にあげる」  驚くうちに、僕の体からも再び芍薬が生まれた。子どもたちが同じように花を生んだことが分かり、母たち姉妹は慌てて僕たちを連れて医者に駆け込んだ。僕らは検査の結果、どちらも花生みだと判明した。
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