3.この花は彼のもの

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3.この花は彼のもの

 翌日の放課後、僕は寄宿舎に帰る途中で声をかけられた。相手は同じクラスの花食み、彩人(あやと)だ。普段関わりも無いのに話があると言われて、首を傾げる。渡り廊下から中庭に出ると、夕食時間が近いこともあり人影はない。派手な容貌の彼は、気怠げに言う。 「昨日、お前の従兄弟に怒鳴られてさぁ」 「どうして?」  彩人が言うには、昨日、僕の様子を見にクラスに来た陽向と揉めたらしい。陽向は以前から彩人のことを嫌がっていた。傲慢を人の形にしたような花食みだと。容姿も要領もいい彩人は特定の相手を作らず、何人もの花生みから次々に花を手に入れている。 「お前がどんどん痩せちゃって、やばいと思ったんだよ。我慢してないで、さっさと新しい相手を見つければいいのにって言ったら、すげぇ怒られて」 「陽向に?」 「そうそう、こっちは親切心で言ってんのに余計なお世話だとか言いやがって」  陽向がどんなに怒ったか目に見えるようだ。彩人たちのように、たくさんの花生みと関係を持つ花食みは一定数いる。彼らは、僕たちとは全く考え方が違う。 「それで、あんな奴より直接本人に話す方がいいと思ってさ」  僕が眉を顰めると、彩人がぐっと顔を近づけてきた。 「本当にお前、綺麗だな。この学校でも一、二を争うような美形の花生みがさ、死にそうに萎れてたら気になるのが花食みってもんだろ。お前の花を食いたいってやつが結構いるんだけど」  そう言って、彩人が指で示した先には、何人もの花食みが立っている。いつの間にそこにいたんだろう。僕は心底ぞっとした。 「……僕は、他の人に花を食べてほしいわけじゃない」 「そんなこと言ってるから、死にそうになるんだろ? お前の花、芍薬だっていうじゃないか。滅多にそんな花を咲かせる奴はいないのに、もったいねえ。今なら、好みの花食みが選び放題だって」  僕は即座に首を振った。  例え対花ではなくても、他の花食みに自分の花を食べてもらうことはできる。そうして代わりに彼らから栄養となる体液をもらえれば、生き延びられるだろう。でも、僕には無理だ。 「……嫌だ。僕の花は司狼のものだ。他の花食みに与えたりしない」 「お前の対花、卒業した後、全く連絡ないって聞いたけどなぁ。折角咲かせた花も、無駄になったら気の毒だよな」  のんびりした彩人の言葉が胸に突き刺さる。部屋の中に立ち込める甘い香り、行き場のない僕の花。自ら捨てた花が目に浮かんで、締めつけられるように胸が痛む。
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