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好きな子に告白しようと思う。
告白失敗した時のことを考えると、告白に一歩乗り出せずにいた。しかし、それは昨日までの自分。
俺には完璧な計画があった。
明日は4月1日、エイプリルフール。これを利用しようと思う。
作成はこうだ。『わたぬきさんのことが好きです、付き合ってください』とダイレクトなメッセージを送る。
断られたら→エイプリルフールだよー、と告白したのを嘘だということにする。
断られなかったら、そのまま付き合う。
どうだ! 逃げを作ってる時点でダサいかもしれないが、女性と付き合ったことない俺にはこの作戦が限界だった。
置時計の時刻を確認する。もう0時を回っている。4月1日になったぞ。善は急げ!
俺は愛しのわたぬきさんにメッセージを送信した。
まだ既読にならない。ドキドキが止まらない。
何度もスマホを確認してしまう。
スマホを見ている内に、上部に表示される時刻が目に付いた。
11時56分。
あれ? 俺のスマホ、時刻がずれてる? いやいや、スマホの時刻は自動で調整されるはず……。
ああーーー! 俺の部屋の置時計がずれてる!
思い出した。5分前行動を心がけるようにして、わざと5分早めていたのだった。
大量の汗が額に噴き出る。
11時56分30秒。まだ3月31日だ。エイプリルフールになっていない。
送信取り消しをしないと。このままでは、告白失敗した時の保険がきかなくなってしまう。
メッセージ取り消しをしようとして、愕然とした。
既読マークがつけられてしまっている。
わたぬきさんは、もうこのメッセージを読んでいる。
なんてこった。もう消すことができない。
ああー! 俺は何をやっているんだ。
ベッドで足をばたつかせていたら、隣の部屋の妹が、「うるさい!」と怒鳴ってきた。
妹に相談するわけにもいかないし、俺はどうすればいいのだろう。
タイムマシンがあるならば、過去に戻りたい。
時刻はどんどん過ぎていき、0時になる。本物のエイプリルフールになった。今から、エイプリルフールの嘘でしたというのはおかしいだろう。俺が3月31日にメッセージを送ったのは見られているのだ。
寒気がして体が震えてきた。
耐えるんだ、俺。告白成功すればいいだけだ。そうすれば、3月31日に告白しても問題ない。
わたぬきさんの無言の既読マークが怖い。なぜ、返事をよこさない。考えているのか。
そうだよな。いきなり俺に告白されたらびっくりするよな。新学期始まったら、俺が告白したことがクラス中に公表されているのか。
いやな想像ばかりが頭をよぎる。
思い返したら、まだ告白するには早かったかもしれない。もっと仲良くなってからすべきだった。
そのまま30分の時が過ぎた。
なぜ、返事をよこさない。もし、逆の立場だったら、俺はすぐにOKの返事をして、舞い上がる。そうならないってことは、すくなくとも、俺のことをぞっこんラブではないということだ。
ああー、こんな時にエイプリルフールの保険が使えたら!
1時間が過ぎた。
完全に既読スルーである。
夜中にメッセージなんて送るんじゃなかった。
その日は一睡もできなかった。
そして、メッセージの返事もこなかった。
もう、半分諦めモードだった。返事をしないということが、わたぬきさんからの拒絶を表している。俺の告白は失敗したのだ。
はぁ、新学期始まる前から憂鬱だ。俺の青春は早くも終わってしまったか。
その日、俺は何をやるにも上の空だった。空気の抜けた風船になったようだった。
ピロン。メッセージの着信音がなった。4月1日11時30分。
息を殺してスマホを見る。メッセージを送ってきたのは、わたぬきさんだった。
まじか。返事か。きたのか。心臓が早鐘を打つ。
期待するな、俺。1日近く返事がなかったのだ。いい返事のわけがない。
だが、期待せずにはいられない。
片目を瞑って、メッセージを読んだ。
『ありがとう~。わたしもあなたのことが気になっていたの。付き合おうっか』
「う、うおおおおおおおおおお!」
俺の絶叫に、隣の部屋の妹が壁を叩いてきた。
「すまん、ちょっと嬉しいことあって、叫んでしまった」
一応、妹に謝る。
さてと。もう一度メッセージを見る。
ニヤニヤが止まらない。俺はメッセージのスクリーンショットを撮った。
電話をした。夜中だが、わたぬきさんの声を聞きたくなった。
「もしもしー」
「あ、ごめん。今、電話大丈夫」
「うん、20分くらいなら」
今は11時40分。12時が彼女の寝る時間ということだろう。
時間が遅いので、布団の中で話した。
俺がどんだけわたぬきさんのことが好きか。愛を語った。
20分の時間はあっという間に過ぎた。でも、わたぬきさんのかわいい声が電話越しで聞けただけで幸せだった。そんなわたぬきさんが俺の恋人だなんて。
明日からは電話だけでなく、実際に会ってデートしたりしよう。むふふ、妄想が止まらない。
「もう12時だね」わたぬきさんが言う。
「うん、明日……もう今日か。4月2日、起きたらデートしようよ。予定はある?」
「ある」
「あ、そう。じゃあ、わたぬきさんが開いている日でいいから、デートしようよ」
「無理―」
「は、なんで? 俺たち付き合ってるんだよね」
「ごめん、それ、うっそー」
「は?」
「エイプリルフールだよぉ」
「え」
「わたし、彼氏いるの。バイト先の先輩と付き合ってるんだ、ごめんね」
エイプリルフールなんて嫌いだ。
(了)
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