エイプリルフール告白

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 好きな子に告白しようと思う。  告白失敗した時のことを考えると、告白に一歩乗り出せずにいた。しかし、それは昨日までの自分。  俺には完璧な計画があった。  明日は4月1日、エイプリルフール。これを利用しようと思う。  作成はこうだ。『わたぬきさんのことが好きです、付き合ってください』とダイレクトなメッセージを送る。  断られたら→エイプリルフールだよー、と告白したのを嘘だということにする。  断られなかったら、そのまま付き合う。  どうだ! 逃げを作ってる時点でダサいかもしれないが、女性と付き合ったことない俺にはこの作戦が限界だった。  置時計の時刻を確認する。もう0時を回っている。4月1日になったぞ。善は急げ!  俺は愛しのわたぬきさんにメッセージを送信した。  まだ既読にならない。ドキドキが止まらない。  何度もスマホを確認してしまう。  スマホを見ている内に、上部に表示される時刻が目に付いた。  11時56分。  あれ? 俺のスマホ、時刻がずれてる? いやいや、スマホの時刻は自動で調整されるはず……。  ああーーー! 俺の部屋の置時計がずれてる!   思い出した。5分前行動を心がけるようにして、わざと5分早めていたのだった。  大量の汗が額に噴き出る。  11時56分30秒。まだ3月31日だ。エイプリルフールになっていない。  送信取り消しをしないと。このままでは、告白失敗した時の保険がきかなくなってしまう。  メッセージ取り消しをしようとして、愕然とした。  既読マークがつけられてしまっている。  わたぬきさんは、もうこのメッセージを読んでいる。  なんてこった。もう消すことができない。  ああー! 俺は何をやっているんだ。  ベッドで足をばたつかせていたら、隣の部屋の妹が、「うるさい!」と怒鳴ってきた。  妹に相談するわけにもいかないし、俺はどうすればいいのだろう。  タイムマシンがあるならば、過去に戻りたい。  時刻はどんどん過ぎていき、0時になる。本物のエイプリルフールになった。今から、エイプリルフールの嘘でしたというのはおかしいだろう。俺が3月31日にメッセージを送ったのは見られているのだ。  寒気がして体が震えてきた。  耐えるんだ、俺。告白成功すればいいだけだ。そうすれば、3月31日に告白しても問題ない。  わたぬきさんの無言の既読マークが怖い。なぜ、返事をよこさない。考えているのか。  そうだよな。いきなり俺に告白されたらびっくりするよな。新学期始まったら、俺が告白したことがクラス中に公表されているのか。  いやな想像ばかりが頭をよぎる。  思い返したら、まだ告白するには早かったかもしれない。もっと仲良くなってからすべきだった。  そのまま30分の時が過ぎた。  なぜ、返事をよこさない。もし、逆の立場だったら、俺はすぐにOKの返事をして、舞い上がる。そうならないってことは、すくなくとも、俺のことをぞっこんラブではないということだ。  ああー、こんな時にエイプリルフールの保険が使えたら!  1時間が過ぎた。  完全に既読スルーである。  夜中にメッセージなんて送るんじゃなかった。  その日は一睡もできなかった。  そして、メッセージの返事もこなかった。  もう、半分諦めモードだった。返事をしないということが、わたぬきさんからの拒絶を表している。俺の告白は失敗したのだ。  はぁ、新学期始まる前から憂鬱だ。俺の青春は早くも終わってしまったか。  その日、俺は何をやるにも上の空だった。空気の抜けた風船になったようだった。  ピロン。メッセージの着信音がなった。4月1日11時30分。  息を殺してスマホを見る。メッセージを送ってきたのは、わたぬきさんだった。  まじか。返事か。きたのか。心臓が早鐘を打つ。  期待するな、俺。1日近く返事がなかったのだ。いい返事のわけがない。  だが、期待せずにはいられない。  片目を瞑って、メッセージを読んだ。 『ありがとう~。わたしもあなたのことが気になっていたの。付き合おうっか』 「う、うおおおおおおおおおお!」  俺の絶叫に、隣の部屋の妹が壁を叩いてきた。 「すまん、ちょっと嬉しいことあって、叫んでしまった」  一応、妹に謝る。  さてと。もう一度メッセージを見る。  ニヤニヤが止まらない。俺はメッセージのスクリーンショットを撮った。  電話をした。夜中だが、わたぬきさんの声を聞きたくなった。 「もしもしー」 「あ、ごめん。今、電話大丈夫」 「うん、20分くらいなら」  今は11時40分。12時が彼女の寝る時間ということだろう。  時間が遅いので、布団の中で話した。  俺がどんだけわたぬきさんのことが好きか。愛を語った。  20分の時間はあっという間に過ぎた。でも、わたぬきさんのかわいい声が電話越しで聞けただけで幸せだった。そんなわたぬきさんが俺の恋人だなんて。  明日からは電話だけでなく、実際に会ってデートしたりしよう。むふふ、妄想が止まらない。 「もう12時だね」わたぬきさんが言う。 「うん、明日……もう今日か。4月2日、起きたらデートしようよ。予定はある?」 「ある」 「あ、そう。じゃあ、わたぬきさんが開いている日でいいから、デートしようよ」 「無理―」 「は、なんで? 俺たち付き合ってるんだよね」 「ごめん、それ、うっそー」 「は?」 「エイプリルフールだよぉ」 「え」 「わたし、彼氏いるの。バイト先の先輩と付き合ってるんだ、ごめんね」    エイプリルフールなんて嫌いだ。    (了)
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!