五流小説家の引っ越し

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 彼女が出来たのは事実だが、実は、執筆活動時間に関しては十分確保できている。  私は今まで様々なコンテストに連敗ながらも、書きたい意欲と読者の反応だけで今までやってきた。  だが最近、読者数はさほど変わりなくても、イマイチ反応が悪くなってきたと感じていた。  事実、私は思い描くような作品が書けなくなっていた。  ハラハラドキドキ、背後から忍び寄る恐怖と突然降ってくる災い。  次のページを早くめくりたい、いや、めくりたくないと思わせるミステリアスな展開。  最近の自分の作品に、どうもそういったものが欠けていった気がする。  もしかして、これが「環境が変われば作風が変わる」というものなのか。  おなじWeb小説サイトで活躍する作家さんのエッセイで、そのようなことを読んだ覚えがある。  ひとまず「ミステリーな事情」が完結したので、新しい作品のプロットを起こしてみる。  しかし思いつくのは、ほのぼのとしたヒューマンドラマや甘酸っぱい学園青春物語。  ……だめだ、これは私のイメージとかけ離れている。  だけどこれを書きたい、書いてみたい。  私の創作意欲が刺激され、脳内では様々なとしたシーンが思い描かれていく。  いやいやいや、私はあくまで「ミステリー作家」。  私の名前でこんな可愛らしい作品を世に出すのは、非常に抵抗がある。  しかも私はほぼ本名で、身内や同級生などに身バレしている。  こんな小説を読まれたと知った時、どんな顔をして次に会えるというのだ…。  では、別のアカウントを作ってそちらで投稿するか?  いや、このWeb小説サイトでは複数垢を禁止している。  ……では、引っ越すか?
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